フクロモモンガを迎えたい、あるいはすでに一緒に暮らしているという方がまず悩むのが「何を食べさせればいいのか」という問題です。フクロモモンガは野生下では昆虫や樹液、花蜜、果実などを食べる雑食性の動物で、飼育下でもその食性を意識した餌選びが求められます。
結論から言えば、フクロモモンガ専用のペレットを主食の軸に据えつつ、果物・野菜・動物性たんぱく質をバランスよく組み合わせることが基本の考え方になります。この記事では、具体的な餌の種類、1日に与える量の目安、避けるべき食材、そして偏食への対処法まで、フクロモモンガの食事にまつわる疑問を一つずつ解消していきます。
フクロモモンガの食性を知る

フクロモモンガの餌を正しく選ぶには、まず野生でどんなものを食べているかを把握しておく必要があります。食性を無視した餌の与え方は、栄養の偏りや体調不良に直結するためです。
フクロモモンガは、オーストラリア北部・東部からニューギニア周辺(インドネシア領パプアを含む)にかけて分布する有袋類で、分類上はカンガルーやコアラに近い仲間です。野生下での食事内容は季節によって変動しますが、大きく分けると「樹液・花蜜などの糖質」「昆虫・小動物などの動物性たんぱく質」「果実・花粉などのビタミン・ミネラル源」の3つで構成されています。アカシアやユーカリの樹液をかじって舐めとる習性があり、甘いものを好む傾向が強い動物です。英名の「シュガーグライダー(Sugar Glider)」も、この甘い樹液や花蜜を好む食性と、滑空する姿に由来しています。
この食性から分かるのは、フクロモモンガは完全な草食でも完全な肉食でもなく、糖質・たんぱく質・ビタミン類をまんべんなく必要とする雑食動物だということです。飼育下ではこの3つの柱を意識しながら、日々の食事を組み立てていくことになります。ペレットだけ、果物だけ、といった単一の餌では栄養が偏りやすく、特にカルシウム不足は「代謝性骨疾患」と呼ばれる骨の病気を引き起こすリスクがあるため、注意が必要です。
主食はフクロモモンガ専用ペレットが中心

飼育下でのフクロモモンガの主食には、フクロモモンガ専用に開発されたペレットフードを据えるのが最も安定した方法です。ペレットは必要な栄養素がバランスよく配合されているため、食事の土台として機能します。これらはフクロモモンガに必要なカルシウムやビタミンD3が配合されており、動物性たんぱく質も含まれているため、栄養の基盤を作るのに適しています。1日あたりの目安量は製品によって異なりますが、体重100gの成体であればペレット5〜10g程度を夕方から夜にかけて与えるのが一般的です。
ただし、フクロモモンガはグルメな一面を持っており、ペレットだけでは食べてくれないケースが少なくありません。特にお迎え直後の個体や、果物やおやつの味を覚えた個体は、ペレットを皿に残したまま好きなものだけ食べるという行動を見せます。ペレットへの食いつきが悪い場合は、以下の方法を順に試してみてください。
まず、ペレットをぬるま湯で軽くふやかして香りを立たせる方法があります。それでも食べない場合は、別の銘柄のペレットに切り替えてみると、食感や風味の違いで食べ始めることがあります。また、果物やおやつより先にペレットをケージにセットし、空腹な時間帯にペレットへ最初にアクセスさせるのも効果的です。
蜂蜜をペレット表面にごく薄く塗って嗜好性を上げる方法もありますが、これはあくまでペレットに慣れさせるための短期的な手段です。これが習慣化すると、甘いものへの依存が強まり偏食や肥満につながるため、数日〜1週間を目安に蜂蜜なしでも食べられるよう移行していきます。
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副食として果物・野菜・動物性たんぱく質を加える

ペレットだけでは補いきれない栄養素や水分を摂取するために、副食として果物、野菜、動物性たんぱく質を毎日の食事に加えることが求められます。副食はフクロモモンガの食への意欲を高める役割も果たします。
果物の選び方と適量
フクロモモンガは甘い果物を好んで食べます。入手しやすく嗜好性が高い果物としては、りんご、バナナ、ブルーベリー、マンゴー、パパイヤなどが挙げられます。りんごは小さなサイコロ状に切って2〜3片、バナナは5mm程度の輪切りを2〜3枚というのが1回あたりの目安になります。果物は水分やビタミンCの補給に役立ちますが、糖分が多いため与えすぎると肥満の原因になります。果物だけでお腹がいっぱいになってペレットを食べなくなるという悪循環に陥りやすいので、量のコントロールが欠かせません。
注意点として、ぶどう(レーズンを含む)は犬で腎障害の報告がある食材で、フクロモモンガでの安全性も十分に確認されていないため、避けるのが無難です。与える場合はごく少量にとどめ、体調の変化がないか観察してください。代わりにブルーベリーやラズベリーなどのベリー類が、少量ずつ与えやすい果物として適しています。
また、アボカドはフクロモモンガを含む多くの小動物に中毒を起こす成分(ペルシン)を含んでいるため、絶対に与えてはいけません。柑橘類(みかん、オレンジ、レモンなど)は酸味を嫌う個体が多く、無理に与える必要はありません。もし与える場合は少量から始め、軟便が出たら中止してください。果物の種や芯もあらかじめ取り除いてから与えましょう。
野菜の選び方と注意点
野菜はビタミンやミネラルの供給源として取り入れたい食材です。フクロモモンガに向いている野菜としては、にんじん、かぼちゃ、さつまいも、小松菜、ブロッコリーが挙げられます。にんじんやかぼちゃは軽く加熱して柔らかくすると食べやすくなります。ただし野菜の好みには個体差があるため、複数の種類を少量ずつ試しながら、食べるものを把握していくのが現実的です。
ほうれん草はシュウ酸を多く含み、カルシウムの吸収を妨げるため避けたほうがよい野菜の代表格です。フクロモモンガはもともとカルシウム不足に陥りやすい動物なので、カルシウムの吸収を阻害する食材はできるだけ排除してください。ネギ類(玉ねぎ、長ねぎ、にんにくなど)は赤血球を破壊する成分を含んでおり、少量でも中毒を起こす危険があるため、絶対に与えてはいけません。
動物性たんぱく質の取り入れ方
フクロモモンガは野生で昆虫を日常的に食べている動物であり、飼育下でも動物性たんぱく質を定期的に摂取させる必要があります。たんぱく質が不足すると毛並みの悪化や免疫力の低下を招き、自咬症(自分の体を噛む行動)の一因になるとも指摘されています。
手軽に与えられる動物性たんぱく源としては、鶏ささみ(加熱済み・無塩)、ゆで卵の白身、乾燥コオロギ、乾燥ミルワームなどがあります。生きた昆虫に抵抗がある場合は、乾燥タイプやフリーズドライ加工されたものがペットショップやオンラインで販売されているので活用してみてください。
昆虫類を与える場合は、ミルワーム・コオロギなど種類を分散させるのが望ましいです。特にミルワームは脂肪分が高いため、毎日与え続けると脂質過多になるおそれがあります。目安としては週に2〜3回、1回あたり2〜3匹程度を補助的なたんぱく源として取り入れ、成長期や繁殖期には頻度や量を増やすなど、個体の状態に合わせて調整しましょう。鶏ささみやゆで卵の白身は脂肪分が少なく、日常的なたんぱく源として使いやすい食材です。
おやつの与え方と頻度を決めておく
おやつはフクロモモンガとのコミュニケーションツールとして有効ですが、与える頻度と量をあらかじめ決めておかないと、偏食や肥満の引き金になります。
フクロモモンガに人気のおやつとしては、蜂蜜、フクロモモンガ用ゼリー、ドライフルーツ、小動物用のクッキーなどがあります。蜂蜜は指先にほんの少し付けて舐めさせると、手に乗る練習やハンドリングの導入に使えます。ただし、蜂蜜やゼリーは糖分が高いため、1日あたり耳かき1〜2杯分程度にとどめるのが目安です。ドライフルーツは市販の人間用のものだと砂糖や油脂が添加されている場合があるので、無添加の小動物用ドライフルーツを選びましょう。
おやつを与えるタイミングは、主食のペレットや副食を食べた後にすると、主食を残してしまうリスクを減らせます。フクロモモンガは夜行性で、活動を始める夕方から夜にかけて食事を摂るため、最初にペレットと副食をケージ内にセットし、その後のふれあいタイムにおやつを少量与えるという流れが自然です。
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1日の食事スケジュールとメニュー例
フクロモモンガの餌やりは、夕方から夜の活動開始に合わせて新鮮な餌をセットするのが基本です。健康な成体であれば1日1回のセットで問題ありませんが、幼齢の個体、高齢の個体、痩せ気味の個体、投薬中の個体などは1日2回に分けて与えるほうが体への負担を減らせます。個体の年齢や体調に合わせて回数を調整してください。
体重100〜130g程度の成体を想定した1日のメニュー例を紹介します。ペレット約8gを主食として皿に盛り、りんご2片とにんじんの薄切り1片を副菜として添えます。動物性たんぱく質として鶏ささみの細切り1〜2片を別の小皿に入れます(昆虫を与える日はコオロギやミルワームに置き換えます)。水は給水ボトルに新鮮なものを毎日入れ替えます。このメニューを基本形として、果物や野菜の種類を日替わりで変えると、栄養の偏りを防ぎつつ食への興味を維持できます。
翌朝には食べ残しを必ず撤去します。フクロモモンガは食べ物を巣箱やポーチの中に持ち込んで隠す習性があるため、巣箱の中も定期的にチェックして、腐敗した食べ物が残っていないか確認します。特に夏場は果物やヨーグルトが数時間で傷むので、衛生管理への意識が欠かせません。
カルシウムとリンのバランスに気を配る

フクロモモンガの食事管理で見落とされがちなのが、カルシウム(Ca)とリン(P)の摂取比率です。目標とされるCaとPの比率はおおむね2対1で、少なくとも1対1を下回らないように管理することが推奨されています。このバランスが崩れるとカルシウムの吸収効率が落ち、骨や体の機能に影響が出ます。
リンは肉類や種子類に多く含まれている一方、カルシウムは意識して補わないと不足しがちです。カルシウム不足が慢性化すると、後ろ足の麻痺や骨折を伴う代謝性骨疾患を発症するリスクが高まります。この病気はフクロモモンガの飼育下で比較的多く見られる疾患の一つで、初期症状としては後ろ足を引きずる、ジャンプの距離が短くなる、といった変化が現れます。
カルシウムを補う方法としては、小松菜やブロッコリーなどカルシウムを比較的多く含む野菜を副食に取り入れるのが取り組みやすい方法です。小動物用のカルシウムパウダーを果物やペレットに振りかけて与える方法もありますが、サプリメントの使用は製品の表示に記載された用量を守り、できればエキゾチックアニマル対応の獣医師に相談したうえで取り入れるようにしてください。
ペレット自体にカルシウムが強化配合されている製品もあるため、サプリメントとの併用で過剰摂取になると、尿路結石などのリスクにつながるおそれがあります。自己判断で毎日一定量を与え続けるのではなく、食事全体のCa:Pバランスを見ながら必要に応じて補うという考え方が安全です。ひまわりの種やナッツ類はリンの含有量が高いため、与えるとしてもごく少量にとどめます。
安全のために知っておきたい受診の目安と注意点
フクロモモンガは体が小さく、食事の変化や体調不良の影響が短時間で体に現れやすい動物です。餌に関連するトラブルで「いつ動物病院に行くべきか」の判断に迷う方も多いため、受診を検討する目安と、日頃から意識しておきたい注意点をまとめておきます。
以下のような状態が見られたら、早めにエキゾチックアニマル対応の動物病院を受診してください。
- 半日〜1日ほとんど餌を食べず、ぐったりしている、または低体温の兆候がある
- 下痢、目やに、鼻水、体重の急な減少など、食欲低下以外の症状も併発している
- 体重が数日のうちに減り続けている(普段の体重から10%の減少は一つの目安ですが、それ以前でも減少傾向が続く場合は受診を検討します)
- 自分の体を噛む(自咬症)行動が見られる
特に幼齢・高齢・妊娠授乳中の個体は体力の余裕が少ないため、成体よりも早い段階で受診を判断する必要があります。
また、カルシウムパウダーなどのサプリメントは獣医師の指示のもとで使用し、自己判断で量を増やさないようにします。幼齢の個体は成体とは必要な栄養量や給餌回数が異なるため、お迎え時にペットショップやブリーダーから食事内容を引き継ぎ、不明な点は獣医師に確認しておくと安心です。
日頃から週に1回は体重を計測し、食事内容とあわせて記録しておくと、体調の変化に気づきやすくなります。キッチンスケールの上に小さな容器を置き、そこにフクロモモンガを入れる方法で、家庭でも手軽に体重管理ができます。
フクロモモンガが餌を食べないときの原因と対処法
フクロモモンガが急に餌を食べなくなった場合、原因はストレス、体調不良、偏食の3つに大別できます。それぞれの原因によって対処の方向性が異なるため、まずは食べない理由を見極めることが先決です。
環境変化によるストレス
お迎え直後や、ケージの配置換え、同居個体の変更など、環境が変わった直後は警戒心から餌を食べなくなることがあります。フクロモモンガは環境変化に敏感で、嗅覚への依存度が高い動物です。新しい環境に自分のにおいが定着するまでの間は食欲が落ちるケースが珍しくありません。
この場合は無理に触ろうとせず、ケージに布をかけて暗くし、静かな環境を維持しましょう。巣箱の中に飼い主のにおいが付いた布を入れておくと、安心感を与えやすくなります。多くの場合は2〜3日で徐々に食べ始めますが、前述の「受診の目安」に該当する症状が見られる場合は、早めに獣医師へ相談してください。
体調不良のサイン
食欲の低下に加えて、下痢、目やに、鼻水、体重の急激な減少、ぐったりして動かないといった症状が見られる場合は、病気の可能性があります。フクロモモンガは体が小さいぶん体力の消耗が早く、食べない状態が続くと短期間で衰弱します。半日〜1日ほとんど食べていない状態でぐったりしている場合は、すぐにエキゾチックアニマルに対応できる動物病院を受診してください。
偏食への対応
フクロモモンガは食べ物の好き嫌いがはっきりしている動物で、一度好物の味を覚えると、それ以外の餌を拒否するようになることがあります。特に甘い果物やゼリーばかり与えていた場合、ペレットをまったく受け付けなくなるケースが見られます。
偏食を矯正するには、好物の量を少しずつ減らしながら、ペレットや他の食材に触れる機会を増やしていく段階的なアプローチが有効です。たとえば、これまでバナナを3切れ与えていたなら2切れに減らし、その分ペレットをふやかしたものを添えます。数日かけて果物の量をさらに減らし、ペレットの比率を上げていきます。空腹になれば食べるだろうと考えて急に好物を全部取り上げるのは、ストレスによる自咬症や体重減少を招くおそれがあるため避けたほうが安全です。
まとめ
フクロモモンガの餌は、専用ペレットを主食の柱に、果物・野菜・動物性たんぱく質を副食として組み合わせることで、必要な栄養をバランスよく摂取させることができます。カルシウムとリンの比率はおおむね2対1を目標に管理し、不足が気になる場合はカルシウムを多く含む野菜を取り入れたり、獣医師に相談のうえでサプリメントを活用したりすることが、代謝性骨疾患の予防につながります。