フクロモモンガを飼い始めて最初に驚くのは、その鳴き声の多彩さかもしれません。小さな体からは想像できないほど大きな声を出すこともあれば、かすかに甘えるような音を漏らすこともあります。フクロモモンガの鳴き声は代表的なものだけでも7パターンほどあり、それぞれが異なる感情や要求を表しています。
鳴き声の意味を理解することは、フクロモモンガとの信頼関係を築くうえで欠かせないコミュニケーション手段になります。この記事では、各鳴き声の特徴と込められた気持ち、夜中に鳴く理由、そして集合住宅などで気になる鳴き声への対処法まで、飼育に役立つ情報を一つひとつ解説していきます。
フクロモモンガが鳴き声を出す理由

フクロモモンガが声を出すのは、仲間や飼い主に自分の状態を伝えるためです。野生のフクロモモンガはオーストラリア北部〜東部やニューギニア(インドネシア領の西パプアを含む)周辺の森林に、数頭〜十数頭ほどの群れで暮らしています。夜行性で暗い森の中を移動しながら仲間と連絡を取り合うため、視覚に頼りにくい夜の森では鳴き声が最も確実な意思伝達の手段として機能しています。
飼育下でも、この習性はそのまま残っています。ケージの中から飼い主に向かって鳴くのは、お腹が空いた、寂しい、怖い、嬉しいといった感情を声に乗せて届けようとしているからです。仕草からは読み取りにくいフクロモモンガの気持ちも、鳴き声を手がかりにすると理解しやすくなります。
鳴き声のバリエーションが豊富な点もフクロモモンガの特徴です。単に「嬉しい」「嫌だ」だけでなく、警戒、威嚇、求愛、呼びかけなど場面ごとに異なる音を使い分けるため、飼い主が聞き分けられるようになると、日々のお世話の質が一段と上がります。
フクロモモンガの代表的な7パターンの鳴き声

フクロモモンガの鳴き声は、音の高さや長さ、リズムによって分類できます。ここでは飼育下でよく聞かれる7パターンの鳴き声を取り上げ、それぞれがどんな場面で発せられ、どのような気持ちを示しているのかを一つずつ見ていきます。ただし、鳴き声の解釈は個体差や状況によって異なる場合があるため、鳴き声だけでなく体勢・耳や目の動き・直前の刺激など複数のサインを合わせて判断するのが基本です。
「アンアンアン」「ワンワン」:仲間を呼ぶ声
夜中に突然響く甲高い「アンアンアン」という連続音は、フクロモモンガの鳴き声の中でも大きな声の代表例で、多くの飼育者が耳にする声です。小型犬が吠えているように聞こえることから「バーキング(barking)」とも呼ばれます。野生下では群れの仲間に自分の居場所を知らせる合図として使われ、飼育下では飼い主の姿が見えないときや、夜中にひとりで目が覚めたときに発することが多い傾向にあります。
この声が聞こえたら、フクロモモンガは「誰かいないの?」と呼びかけている可能性があります。1匹で飼育している場合に特に多く、寂しさや不安がきっかけになっていることが考えられます。声が聞こえたらケージに近づいて穏やかに名前を呼んだり、手のひらの匂いをかがせたりすると、安心して鳴きやむことがあります。
「シューシュー」「チチチ」:甘えや親愛の声
飼い主のポケットの中やポーチの中に入っているとき、あるいは手のひらの上でリラックスしているときに漏れる「シューシュー」「チチチ」という小さな音は、甘えや安心を示すサインであることが多いとされています。音量は小さく、耳を近づけないと聞き取れないこともあります。
ただし、この種の小さな発声は個体差が大きく、緊張や軽い不快感から出ている場合もある点に注意が必要です。判断のポイントは、体の力が抜けているか、耳が自然に開いているか、逃げようとする動きがないかなど、鳴き声以外のサインとの組み合わせです。リラックスした状態でこの声が出ているときは、無理に触ったり持ち上げたりせず、そのまま穏やかな時間を共有するのがよい対応になります。お迎えしたばかりの個体がリラックスした姿勢でこの声を出し始めたら、少しずつ環境に慣れてきたサインとして受け取ることができます。
「ギーギー」「ジージー」:警戒・威嚇の声
爪切りや体重測定など、フクロモモンガが嫌がるお世話をしているときや、見慣れないものに遭遇したときに聞こえるのが、「ギーギー」「ジージー」というやや濁った低めの声です。「クラビング(crabbing)」と呼ばれることもあり、カニが殻をこすり合わせるような独特の響きがあります。
この声は恐怖や警戒、威嚇の感情から出ていることが多いとされています。「怖い」「近づかないで」という防御的な反応と考えるのが自然です。お迎え直後の個体が飼い主の手に対して発することも多く、まだ人間に慣れていない段階でよく見られます。この声が出たときに無理に触り続けると、噛みつきにつながる場合があります。いったん手を引き、フクロモモンガが落ち着いてから再度ゆっくり近づくのが安全です。
「キュキュキュ」:興奮や喜びの声
好物のミルワームやフルーツを見つけたとき、あるいは部屋の中を滑空して遊んでいるときに出る「キュキュキュ」という短く弾むような声は、興奮や喜びの表れと考えられています。テンポが速く、体全体が活発に動いている状態と連動していることが多い傾向にあります。
この声はポジティブな感情から生まれている可能性が高いため、飼い主としては安心して見守れる場面です。遊びの時間やおやつの時間にこの声が頻繁に出るようなら、フクロモモンガが日常を楽しめている指標のひとつになります。
「プクプク」「プスプス」:リラックスの声
寝入りばなや、毛づくろいをしている最中に聞こえる「プクプク」「プスプス」という柔らかい音は、リラックスしているときに出ることが多い声です。飼育者の間では「喉を鳴らすような音」と表現されることもあります。呼吸のリズムに合わせて断続的に出ることが多く、体の力が抜けている状態で聞かれる傾向にあります。
この声が出ているときは、フクロモモンガが安心している可能性が高い状態です。寝袋やポーチの中から聞こえてきたら、そっとしておくのが一番の対応になります。環境が合っている、温度が快適であるなど、飼育環境が整っているサインとしても受け取れます。
「ギャッ」「キャッ」:驚きや痛みの声
突然の大きな音、予想外の接触、あるいは体のどこかに痛みを感じたときに出る「ギャッ」「キャッ」という短く鋭い一声は、驚きや痛みの反射的な反応です。持続的に鳴き続けるのではなく、1回だけ短く発するのが特徴です。
この声が出たら、直前に何が起きたかを確認する必要があります。足を挟んだ、爪が引っかかったなどの物理的な原因がないか、ケージ内に危険な箇所がないかを点検しましょう。原因が見当たらないのに繰り返し発する場合は、体調不良の可能性も考えられるため、エキゾチックアニマルに対応できる動物病院への相談を検討する段階です。
「ムームー」「クゥクゥ」:求愛の声
繁殖期のオスが発する「ムームー」「クゥクゥ」という低く長い声は、メスへの求愛行動の一環です。夜間に繰り返し発せられ、数十分から1時間以上続くこともあります。オス単独で飼育している場合でも、性成熟を迎えた生後12〜14か月頃からこの声が出始めることがあります。
求愛の声自体は正常な生理現象であり、止めさせることは難しいのが実情です。繁殖の予定がない場合は、エキゾチックアニマルの診療に対応した獣医師と相談のうえ去勢手術を検討する方法があります。去勢によって鳴き声の頻度が下がったという報告もありますが、効果には個体差があります。
また、フクロモモンガは体が小さいぶん麻酔のリスクに配慮が必要で、術後の管理にも注意が求められます。手術を検討する際は、フクロモモンガの手術経験がある獣医師に適齢やリスクについて相談してから判断するのが安全です。
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フクロモモンガが夜中に鳴く理由と対策

フクロモモンガの鳴き声に関する悩みの中で最も多いのは、夜中の鳴き声が気になって眠れないという問題です。これはフクロモモンガが夜行性であることに直結しており、人間が寝静まる深夜こそが彼らの活動のピークにあたります。
夜中に鳴く主な原因
夜中に鳴く主な原因は3つあります。
1つ目は仲間を呼ぶバーキングで、特に1匹飼いの場合に顕著です。群れで暮らす習性を持つフクロモモンガにとって、夜に仲間の気配がないことは不安につながります。
2つ目は空腹です。夜行性のフクロモモンガは日没後に活動を始めるため、夕方にセットした餌を食べ終えた深夜に空腹を感じて鳴くことがあります。ただし、鳴くたびにおやつを追加で与えると「鳴けばもらえる」と学習してしまい、肥満や栄養バランスの崩れにつながるリスクがあります。対策としては、追加給餌ではなく1日の給餌量の配分やタイミングを見直す方向で考えるのが基本です。たとえば、夕方の給餌時間を少し遅らせる、主食の量と内容が適切かを確認するといった調整が有効です。
3つ目は求愛行動で、先述のとおり性成熟したオスが長時間にわたって低い声を出し続けるケースです。
夜鳴きへの対策
対策としては、まず就寝前にケージ内の環境を整えることが基本になります。餌と水を十分に用意し、回し車やロープなどの遊び道具を設置して、フクロモモンガが一人でも退屈しない状態を作ります。飼い主の匂いがついたフリース布をケージに入れておくと、安心材料になって鳴く回数が減ったという飼育者の体験も知られています。
ただし、布はほつれにくい素材を選び、糸がほどけてきたらすぐに交換してください。ほつれた糸に足や指が絡まる事故や、布の破片を誤飲するリスクがあるためです。汚れたまま放置すると皮膚トラブルの原因にもなるため、定期的に洗濯して清潔な状態を保つ必要があります。
また、寝室とケージの設置場所を分けることも現実的な対策です。フクロモモンガのバーキングは個体や環境によって音量に差がありますが、深夜の静かな室内では日常会話と同じくらいの大きさに感じられることもあります。壁を1枚隔てるだけでも体感的な音量はかなり軽減されます。防音カーテンやケージカバーを併用する方法もありますが、通気性を確保できる素材を選ぶ必要があります。
鳴き声で気づくフクロモモンガの体調変化

日頃から鳴き声を聞き分けていると、体調の変化にいち早く気づけるようになります。フクロモモンガは体が小さいぶん、体調を崩してから悪化するまでの時間が短い傾向にあり、早期発見が治療の結果を左右します。
普段と異なる鳴き方に注意
普段は穏やかな性格の個体が急に「ギーギー」と頻繁に鳴くようになった場合、どこかに痛みや不快感を抱えている可能性があります。食欲の低下、排泄物の変化、被毛の乱れなど、鳴き声以外のサインと合わせて観察することで、異変を見逃しにくくなります。
逆に、普段よく鳴く個体が急に静かになった場合も注意が必要です。元気がなくなって声を出す体力が落ちているケースや、ストレスで萎縮しているケースが考えられます。ケージの温度が適温範囲から外れていないか、近隣で工事の騒音がなかったかなど、環境面の変化も振り返って確認しましょう。
鳴き声を通じてフクロモモンガともっと仲良くなるには
鳴き声の意味がわかるようになると、フクロモモンガとの距離が一気に縮まる感覚を味わえます。言葉を話せない動物の気持ちを推測するうえで、鳴き声は最も直接的なヒントだからです。
鳴き声と行動の記録
日々のお世話の中で実践できることとして、鳴き声と行動をセットで記録する習慣があります。スマートフォンのメモ機能やノートに「21時・バーキング・餌皿が空だった」「ポーチの中でチチチと鳴いた・手のひらに乗せた直後」など、時間・鳴き声の種類・そのときの状況を書き留めていくと、個体ごとの傾向が見えてきます。フクロモモンガは個体差が大きい動物で、同じ鳴き声でも個体によって頻度やきっかけが異なることが珍しくありません。
声かけによる信頼関係の構築
飼い主の側からフクロモモンガに声をかけることも、信頼関係の構築に役立ちます。餌を交換するときに名前を呼ぶ、ポーチから出すときに同じフレーズで声をかけるなど、特定の音と安心できる体験を結びつけることで、フクロモモンガは飼い主の声を「安全な音」として認識するようになります。動物が特定の音や刺激と経験を結びつけて学習する仕組みを利用した方法であり、時間はかかりますが着実に効果が現れます。
フクロモモンガの平均寿命は飼育下で10〜15年とされており、長い年月をともに過ごすパートナーです。最初は聞き慣れない鳴き声に戸惑うこともありますが、1つひとつの声に耳を傾けていくうちに、「今は機嫌がいいな」「お腹が空いたのかな」と自然に読み取れるようになっていきます。
まとめ
フクロモモンガの鳴き声は、仲間を呼ぶ「アンアンアン」、甘えの「チチチ」、警戒・威嚇の「ギーギー」、喜びの「キュキュキュ」、リラックスの「プクプク」、驚きの「ギャッ」、求愛の「ムームー」と、代表的なものだけでも7パターンに分けられます。それぞれの声が持つ意味を知り、体勢や表情など鳴き声以外のサインと組み合わせて判断することで、フクロモモンガが何を感じ、何を求めているのかを推測しやすくなります。
夜中の鳴き声には、給餌タイミングの見直し、遊び道具の準備、飼い主の匂いがついた布の活用、ケージの設置場所の工夫といった具体的な対策が有効です。集合住宅では壁からケージを離す、防振マットを敷く、アクリルカバーで囲うなどの物理的な防音対策を組み合わせることで、近隣への配慮と快適な飼育環境を両立できます。
鳴き声は、フクロモモンガが飼い主に向けて発信する最も身近なメッセージです。日々の観察と記録を積み重ねながら、小さな声の一つひとつに耳を傾けてみてください。その積み重ねが、フクロモモンガとの暮らしをより豊かなものにしてくれます。