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“砂漠の妖精”グンディ、重なる様子はまるで“きな粉餅”!? 足立区生物園に謎の生態を聞く
インタビュー

“砂漠の妖精”グンディ、重なる様子はまるで“きな粉餅”!? 足立区生物園に謎の生態を聞く

足立区生物園では、アフリカ北部原産の齧歯類「グンディ」の飼育展示を始めました。

「砂漠の妖精」とも言えるグンディですが、一見するとモルモットに似ている外見ながら、砂漠環境に独自に適応した特徴を持っているようです。担当飼育員の方にお話を伺いました。

そもそもなぜグンディを展示することに?

餌を食べるグンディ
餌を食べるグンディ

ーーグンディを展示しようと決めた経緯を教えていただけますか?

以前はここの展示スペースにチンチラがいたんですけど、施設が老朽化してボロボロになってしまって。それを改修するにあたって、アニマルウェルフェアを意識した取り組みをこの園でも進めているので、施設を直すなら、より一層アニマルウェルフェアを意識したものにしていこうという話になりました。ここは『観察展示室』というお部屋で、動物たちの自然な姿を来園者の方に見ていただくためのスペースですので、そういった点を意識して作るなら、もう全部変えて新しくしていこうということになったんです。

グンディが展示されている観察展示室
グンディが展示されている観察展示室

ーーグンディはどのような経路で足立区生物園に来たのでしょうか?

グンディというのは、埼玉県こども動物自然公園さんが元々飼育していた動物で、埼玉県こども動物自然公園さんは世界動物園水族館協会に加盟している園ですので、海外の動物園からも受け入れています。今いる子たちも、ドイツの動物園にいた個体の子孫で、ドイツの動物園と埼玉県こども動物自然公園さんがやり取りをして日本に導入しており、埼玉さんでは繁殖が順調に進んで個体数が増えています。

しかし向こうのスペースにも限りがありますので、こちらの空いているスペースを活かして、種の保存という動物園の重要な役割も果たせるよう受け入れることにしました。埼玉さんだけでなく、他の園、つまり私たちの園でも増やしていけたら、グンディという動物の種の保存にも繋がりますし、こういった珍しい動物がいるということを皆さんに知っていただけるのではないかと思っています。

葉を食べるグンディ
葉を食べる様子

ーー展示環境も野生の環境を再現されているんですね。

できるだけ自然の環境を再現したいと思いました。導入する前に埼玉県こども動物自然公園さんに視察に行かせていただいて、どのように展示・飼育しているのかを実際に見せていただいたり、飼育方法についても色々とお話を伺って、参考にさせていただきました。グンディは上下の動きが非常に活発だということもわかりましたので、そういった点を考慮して、温度設定なども含め、様々な情報を聞きながら展示環境を作りました。

ーー足立区生物園といえばモルモットや小型齧歯類のイメージがあります。そのあたりとは関連があるのでしょうか?

生物園では、他の園よりも小型の齧歯類を積極的に展示しています。モルモットは家畜やペットとしての動物ですが、グンディは野生の動物です。同じ齧歯目の動物でも、野生に適した環境と、家畜やペットとしての愛玩動物としての暮らし方は全然違います。見た目は似ていても、暮らし方はそれぞれ違うということも皆さんに知っていただきたいと思っています。

モルモットなどは人間と長く暮らしてきた歴史がありますが、グンディはそういった人間の暮らしとは全く別の環境で生きてきたネズミの仲間です。そこが大きく違います。

立ち上がったグンディ
立ち上がった姿
まったりするグンディ
まったりするグンディ

飼育員さんとグンディの関わり方

ーー餌をあげる時などは飼育員さん同士で触れ合ったり、飼育員さんが触ったりすることもあるんですか?

ほとんどなくて、ちょうどいい距離感を保っています。モルモットであれば手で持って健康チェックなどをしますが、この子たちはそこまで密接な関係ではなく、お互いにちょうどいい距離感の中で健康チェックをします。そこがモルモットとは違う難しさでもありますね。必要以上にベタベタと触ったりということはしていません。埼玉さんでも、必要な治療や投薬が必要な場合以外は触らないようにしているとのことでしたので、それを参考にさせていただいています。

岩の上で休むグンディ
岩の上で休む様子

ーー飼育員さんとはどのような形でコミュニケーションをとっているのですか?

直接触れ合うことはしませんが、展示室に入る時には必ず声をかけるようにしています。いきなりガラガラと扉を開けて入っていくとびっくりさせてしまうので、「入るよ」とか「ご飯だよ」などと声をかけるようにしています。グンディも仲間同士で鳴き声によるコミュニケーションを取っている動物なので、この声がする時は自分たちにとって怖いことが起きないんだということを覚えてもらった方が、不必要に怖がらせたりびっくりさせたりすることがないと思います。掃除の時も「お掃除するよ」「ご飯あげるよ」といった声かけをして、自分の存在を知らせながら中に入るようにしています。独り言のように「ここにうんちしちゃって〜」とか話しかけながら作業しています。

グンディのおしり。通称“グンケツ”
グンディのおしり。通称“グンケツ”

ーー人間の声にも慣れてくるんですね。齧歯類は適応能力が高いのでしょうか?

そうかもしれないですね。ただ齧歯類の動物に限らず、多くの動物は音とその後の出来事の関連性をきちんと学習すると思います。特定の音の後に何が起こるのかを覚えて適応していくんですね。最初は本当にお互い初めましてという状態だったので、その変化を強く感じています。

最初の頃は警戒心がすごく強く、展示室に出したばかりの頃はずっと隠れていて、なかなか出てきませんでした。飼育員が入ると素早く隠れてしまい、飼育員が出た後もしばらく警戒している様子でした。でも徐々に慣れてきて、今では掃除をしている時にも出てきて様子を見に来てくれたりします。餌やりの時間も大体わかってきたようで、その時間になるとそわそわと動き始めます。飼育員が入ると一旦は隠れますが、餌を置くとしばらくして離れたところから出てきて食べ始めたりします。少しずつ打ち解けてきているというか、警戒心が和らいできているように感じます。

砂場の上のグンディ

まるできな粉餅のよう。グンディの不思議な生態

ーー社交性がありそうですね。

仲間同士では鼻を触れ合わせて挨拶のようなコミュニケーションを取ったり、きな粉餅みたいに積み重なってリラックスする姿も見られます。

彼らは肋骨が開くので、体がすごく平べったくなれるんです。狭いところに隠れる習性があるので、狭い場所でも入れるような体の構造になっています。見ていると『大丈夫かな』と思うくらい体を平らにします。

完全に平べったくなれる
完全に平たくなることができる

ーー重なって寝ているのは何か意味があるんですか?

これはリラックスしている証拠です。埼玉こども動物自然公園さんに伺ったところ、意外なことに下にいる個体の方が強い傾向があるそうです。

ーーそうなんですか。ここのグンディたちはどうですか?

うちの4匹はまだ関係性がはっきりしていなくて、誰が下になったり上になったりとランダムな感じです。

おり重なるグンディたち
おり重なるグンディたち

ーーなぜそうなのかはわかっていないんですね。

これがグンディの特徴で、群れで安心して一緒にいるというのが基本的な生活パターンです。面白いのは、下にいる子は背中がボサボサになりますね。上に乗られると鼻などでこすられるので毛並みが乱れます。

時々、乗られたくない時は避けたりするので、グンディ同士の中でも何か関係性があるようです。気分で「今日は乗られたくないな」という日もあるのかもしれません。

まだ、モルモットと違って毛並みや色、柄に差がないので個体識別が難しいかと思っていましたが、4匹しかいないので毎日見ていると顔つきの違いがわかってきます。目が大きい子や小さい子がいたり、鼻の形が少し違ったりするので、今のところは見分けられています。

グッズのイラストにもなっています
グッズのイラストにもなっています
きな粉餅のような見た目を活かした商品
きな粉餅のような見た目を活かした商品

グンディの生態について

ーーグンディたちの一日の様子を教えていただけますか?

この部屋の室温は大体25度くらいに設定していて、ホットスポットが2か所あって、この下が約30度になるようにセットしています。夜間は、自然界でも太陽が沈むように、ホットスポットを消して電気を暗くして夜間環境を再現して、日内リズムを作っています。朝になったら照明をつけてホットスポットもつけて「朝だよ」という感じで一日が始まります。

その後掃除をして、グンディたちはそれぞれ寝たり、くっついたり、牧草を食べたりして過ごします。現在は14時半頃にペレットやお野菜などの餌をあげていて、食べ終わった後もそれぞれ好きに過ごしています。昼行性なので、日中は活発に動き回ったり高いところに登ったりします。

木の枝にとまったグンディ
木の枝にとまっている姿

ーー餌はどんなものを与えているんですか?

現在はドイツの動物園から埼玉さんが教えてもらったマニュアル通りに与えています。セロリ、ズッキーニ、ニンジンを混ぜたものを与えていて、特にニンジンが好きなようです。セロリの葉の部分も好んで食べます。

元々砂漠の生き物なので、乾燥した環境に住んでいたため、こういった新鮮な野菜は野生では食べられません。そのため、量を決めて決まった時間に与えています。メインの食事は牧草や樫の葉などです。

葉を齧る様子
葉を齧る様子

グンディとモルモットの違いは?

ーー見た目や食べるものなど、モルモットなど他の齧歯目の動物と似ている部分と違う部分はありますか?

モルモットと比べると、食べ物に関しては大きな違いはありません。一つ違うのは、グンディにはハト用の配合飼料も混ぜて与えていて、トウモロコシなどもプラスしています。モルモットは完全な草食性なので最近はそういったものは与えていません。

また、砂漠環境に適応しているので、水はモルモットほど飲みません。モルモットは給水ボトルの水をよく飲みますが、グンディはあまりがぶがぶ飲まず、野菜などからの水分を摂取しているようです。

体の構造でいうと、モルモットは平面的な動きしかできませんが、グンディは後ろ足が発達していて、上下運動ができ、高いところにも登れます。これがモルモットとの大きな違いです。

動きはとても素早い
動きはとても素早い

ーーこんなに高い岩に登れるんですね。

来園者の方からもよく「モルモットにそっくり」と言われますが、後ろ足の使い方の違いを説明すると「確かにモルモットはこんなに丸まって上に登れないよね」と理解してもらえます。そういった違いを来園者の方とお話しするのも楽しいですね。

ーー体毛はどんな感じですか?

モルモットより柔らかいです。表面はベージュ色ですが、根元の部分はグレーになっています。グンディの特徴として、後ろ足の指と指の間に櫛のようなものが生えているのですが、これはあまり目立ちません。

砂漠環境への適応として、先ほど言った肋骨が開いて狭いところに隠れやすくなる特徴や、耳たぶがほとんどなく、直接体に穴が空いているような形になっています。これもモルモットとは違う点です。岩場の隙間に隠れる際に耳たぶがあると邪魔になるため、そうなっているのではないかと言われています。砂漠という特殊な環境に適応した体の構造になっているのです。

特徴的な耳の形に注目
特徴的な耳の形に注目

ーー動きがリスに似ているように感じます。

そうですね。すばしっこさがあります。ただ、緊張している時はロボットのようなかくかくした動きをします。まるでゼンマイ仕掛けのおもちゃのようです。

ーー人間に見られることには慣れてきましたか?

この展示環境には慣れてきましたが、私たちスタッフが入って掃除などをしている時に出てきて、人に気づくとかくかくと隠れ家に入っていくこともあります。その動きが面白いです。

あと、モルモットは尻尾が見えませんが、グンディは尻尾が一応あります。ただ、リスなどと違って尻尾でバランスを取るといった役割はないと思います。

3匹のグンディ
餌に集まっている様子

グンディを飼育することの苦労と工夫

ーーグンディについての情報はあまりないんですね。

グンディを飼育することになった時も、最初は全然知らなかったので、色々と本を読んだり調べたりしました。埼玉さんに聞いた情報を参考にしながら、実際に飼育しながら学んでいる状態です。今も手探り状態で、日本語でネットで「グンディ」と検索しても、埼玉県こども動物自然公園さんと足立区生物園のページくらいしか出てきません。

調査する時は英語で検索して、海外の動物園のホームページなどを参考にしながら飼育を進めています。

枝の上にいるグンディ
今も手探り状態で飼育している

ーー飼育してみて何か発見はありましたか?

聞いていた情報と違うということは今のところ感じていませんが、まだうちでは4匹の群れしかいません。ただ、グンディは喧嘩をすると大変なことになると聞いているので、喧嘩によって群れがどう分かれてしまうのかなど、まだわからないことがあります。

彼らは群れの匂いに対してとても敏感で、埼玉さんでは掃除用具や餌皿を洗うスポンジなども群れごとに分けているそうです。それらが混ざってしまうと、それがきっかけで群れ同士の抗争が起きることもあるとのこと。うちはまだ一つの群れしかいないので、そこまでの手間はかかっていませんが、今後増えていった場合にどうなるのかは未知数です。日々の関係性を観察しながら飼育を続けています。

グンディのクリアファイルも登場!
グンディのクリアファイルも登場!

ーー群れで生活するのが特長の動物なんですね。

そうです。群れ同士は仲良くなれない、混ぜられない特性があります。これはグンディだけでなく、ネズミ系の動物に共通する特徴です。チンチラなども一度喧嘩をすると元の群れに戻せなくなることがあります。私たちはチンチラでそういった闘争の経験はありますが、グンディでどのような形になるのかはまだわかりません。

ーー動物園では珍しい動物を展示することも大切な役割ですよね。未知のことに対処していくプロセスも。

そうですね。動物園同士のつながりが非常に重要で、飼育している施設に相談したり、情報共有をすることが大切です。ただ、生き物なのでマニュアル通りにすべてがうまくいくわけではなく、日々の様子や変化を観察していくことが重要です。

そして飼育員さんが思う、グンディが最も可愛い瞬間とは?グンディのおちゃめなエピソードなど、詳しくは5月24日発売の『Minimaマガジン』“珍”な仲間たち特集号でご覧ください!

Minimaマガジン第2号
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記事の執筆者

Minima編集部

小動物のかわいさと、ペットとしてお迎えするときに知っておきたい情報を、Minima編集部がお届け。

おうちでの豊かでしあわせな暮らしをサポートします。

なお編集部のペットはクレステッドモルモット。実体験に基づいた、確かな情報をお伝えしていきます。

本記事に関するお問い合わせはこちらまでお願いいたします。

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