フクロモモンガの小さな口の中には、一般に40本とされる歯が並んでいます。体重わずか100〜150g程度の体に対して歯の数が多く、上顎と下顎にそれぞれ役割の異なる歯が配置されています。野生での食生活に適応した形をしている一方、飼育下ではフードや果物など野生とは異なる食事を与えるため、歯のトラブルが起きやすい面もあります。
この記事では、フクロモモンガの歯の構造から、飼育中に注意したいトラブルのサイン、そして日頃のケア方法まで、順を追って解説します。

フクロモモンガの小さな口の中には、一般に40本とされる歯が並んでいます。体重わずか100〜150g程度の体に対して歯の数が多く、上顎と下顎にそれぞれ役割の異なる歯が配置されています。野生での食生活に適応した形をしている一方、飼育下ではフードや果物など野生とは異なる食事を与えるため、歯のトラブルが起きやすい面もあります。
この記事では、フクロモモンガの歯の構造から、飼育中に注意したいトラブルのサイン、そして日頃のケア方法まで、順を追って解説します。


フクロモモンガの歯は切歯・犬歯・前臼歯・臼歯の4種類で構成されています。総数は一般に40本とされますが、資料や個体によって前臼歯の数にわずかな変異が見られるケースがあり、文献によっては「38本」と記載されることもあります。
もっとも目を引くのは、下顎前方の切歯が大きく発達し、前方に突き出している点です。この下顎の切歯は細長く、先端がやや内側にカーブしています。野生のフクロモモンガは樹液や花蜜、昆虫などを食べることが知られており、樹皮をかじって樹液を得ることもあります。突き出した下顎切歯は、樹皮を削り取るための「ノミ」のような道具として機能していると考えられています。飼育下でも硬いペレットをかじるときにこの切歯を器用に使う様子が観察できます。
上顎の切歯は下顎ほど突出していませんが、前方の切歯がやや大きく発達しています。上下の切歯が噛み合うことで、果物の皮をむいたり昆虫の外殻を割ったりする作業が可能になります。犬歯は上顎に存在し、サイズは小さめです。前臼歯と臼歯は食物をすりつぶす役割を担い、臼歯の咬合面には細かい突起(咬頭)が並んでいます。この突起のおかげで、果実や昆虫など柔らかめの食物を効率よくすりつぶすことができます。
フクロモモンガは有袋類に分類される動物です。有袋類の多くは生涯を通じて歯の生え替わりがほとんど起こらない特徴を持っています。犬や猫のような有胎盤類では乳歯から永久歯へ明確に生え替わりますが、フクロモモンガでは前臼歯のうち1本だけが乳歯から永久歯へ交換され、それ以外の歯は最初に生えたものが一生使われます。つまり、一度損傷した歯は基本的に元には戻りません。
また、フクロモモンガの歯はげっ歯類のように一生伸び続ける「常生歯」ではありません。ハムスターやデグーの切歯は生涯伸び続けるため定期的に削る必要がありますが、フクロモモンガの歯は一定の長さで成長が止まります。そのため、げっ歯類で見られるような「伸びすぎ」のトラブルは基本的に起こりません。ただし、噛み合わせの異常(不正咬合)によって特定の歯に過度な負担がかかり、当たりが強くなる場合があります。このようなケースでは動物病院で歯を削る処置が必要になることもあるため、「常生歯でないから安心」とは言い切れない面があります。

フクロモモンガの歯に関するトラブルで、飼育者が遭遇しやすい代表例は歯周病・歯の破折・不正咬合の3つです。このほか口内炎や顎骨の炎症などが起こることもあります。いずれも初期段階では気づきにくく、食欲の低下や体重減少といった全身症状が出てから発覚するケースが少なくありません。
飼育下のフクロモモンガで比較的多く見られる歯のトラブルが歯周病です。歯と歯茎の間に食べかすが溜まり、細菌が繁殖することで歯肉が赤く腫れ、進行すると歯を支える骨まで溶けてしまいます。果物やゼリー状のフードなど糖分が多く柔らかい食事を中心に与えていると、歯の表面に歯垢が付着しやすくなります。
歯周病が進行したフクロモモンガは、口元を前足でしきりにこする仕草を見せることがあります。また、食事中にフードを口に入れてはすぐ落とす、片側だけで噛む、よだれが増えるといった変化も歯周病のサインです。口臭が強くなることも特徴の1つで、普段からフクロモモンガの顔周りの匂いに慣れておくと、異変に気づきやすくなります。
ケージの金属部分をかじる癖があるフクロモモンガは、切歯が欠けたり折れたりする「破折」を起こすことがあります。下顎の切歯は細長い形状のため横方向からの力に弱く、金網をかじり続けると根元付近から折れてしまう場合があります。破折した歯の断面から歯髄(神経と血管が通る部分)が露出すると、強い痛みが生じ、細菌感染のリスクも高まります。
落下事故や硬すぎるおもちゃとの衝突でも破折は起こり得ます。フクロモモンガは滑空する動物であるため、着地に失敗して顔面を打つケースもあります。ケージ内のレイアウトを工夫し、滑空の着地点にクッション性のある素材を設置しておくと、衝撃を和らげることができます。その際、ほつれや糸のほどけがない素材を選び、劣化が見られたら早めに交換してください。糸が出た布やフリースは爪の引っかかりや誤飲の原因になります。
上下の歯が正常に噛み合わない状態を不正咬合と呼びます。フクロモモンガの場合、先天的な骨格の問題で起こることもありますが、飼育下では後天的な原因のほうが多い傾向があります。片方の切歯が破折や脱落で失われると、対合する歯に適切な摩耗が起こらなくなり、噛み合わせが徐々にずれていきます。
不正咬合になると食事の効率が落ち、栄養状態が悪化します。フクロモモンガはもともと体が小さく、数日間の食欲低下でも急激に体重が減少することがあるため、噛み合わせの異常は早期に対処する必要があります。動物病院ではレントゲン撮影で歯根の状態を確認し、必要に応じて歯を削る処置や抜歯が行われます。

フクロモモンガの歯の健康を守るには、食事内容の見直し・ケージ環境の整備・定期的な口腔チェックの3つを日常的に実践することが効果的です。
歯垢の蓄積を抑えるうえで、食事のバランスを整えることが基本的な対策になります。フクロモモンガは甘い果物を好みますが、バナナやブドウなど糖度の高い果物ばかり与えていると、歯の表面に糖分が残りやすくなります。果物は1日あたりティースプーン1〜2杯程度を目安にし、主食にはフクロモモンガ専用のペレットを据えるのが望ましい形です。
昆虫食も歯の健康維持に一役買います。ミルワームやコオロギなど生きた昆虫を与えると、噛む回数が自然に増え、歯や歯茎への適度な刺激になります。乾燥タイプの昆虫でも一定の効果は期待できますが、生きた昆虫のほうが噛み応えがあり、フクロモモンガ自身も活発に捕食行動を見せます。頻度や量の目安としては、週に3〜4回、1回あたりミルワーム3〜5匹程度が一般的に紹介されていますが、個体の体格や主食の内容によって調整が必要です。与えすぎるとカルシウムとリンのバランスが崩れたり、肥満につながったりすることがあるため、全体の栄養バランスを意識しながら取り入れてください。
ゼリー状やペースト状のフードは嗜好性が高い反面、歯の隙間に残りやすく歯垢の原因になりやすいという欠点があります。おやつとして少量を与える分には問題ありませんが、主食として毎日大量に与えるのは避けたほうが無難です。
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歯の破折を防ぐには、フクロモモンガがケージの金網をかじる行動そのものを減らす工夫が求められます。金網かじりはストレスや退屈のサインであることが多いため、ケージ内にロープや木製のステップなど体を動かせるアイテムを複数設置すると、かじり行動が減少する傾向があります。回し車を設置する場合は、尻尾や指の挟み込み事故が報告されているため、隙間のない安全設計のもので、フクロモモンガの体格に合った十分なサイズを選んでください。使用中は定期的に点検し、破損や変形がないか確認する必要があります。
ケージの素材選びも見逃せないポイントです。金網の目が細かすぎるとフクロモモンガの歯や爪が引っかかりやすく、無理に引き抜こうとして歯を痛めるリスクがあります。個体の体格に対して頭が抜けない間隔でありながら、指や爪が挟まらない設計のものを選んでください。アクリル製のケージも選択肢の1つで、金網をかじる心配がない点がメリットです。ただし、アクリルケージは通気が不足しやすく、夏場は内部に熱がこもりやすいため、通気口が十分に確保された設計のものを選び、温湿度計を設置して環境を管理する必要があります。
滑空時の事故を防ぐためには、ケージの高さに対して十分な着地スペースを確保することが有効です。高さ60cm以上のケージを使う場合、中間地点にステージや止まり木を設けておくと、万が一滑空に失敗しても落下距離を短くできます。
フクロモモンガの歯のトラブルは外から見えにくいため、月に1〜2回は口の中を観察する習慣をつけておくと安心です。ポーチの中でリラックスしているときや、手のひらの上でおやつを食べているときに、そっと口元を覗き込むと下顎の切歯の状態を確認できます。左右の切歯の長さが揃っているか、歯茎に赤みや腫れがないか、歯の表面に茶色い歯石が付着していないかをチェックします。嫌がる場合は無理に口を開けようとせず、中止してください。自宅での観察が難しい場合は、動物病院で相談するのが安全です。
口腔内の奥まで観察するのは自宅では難しいため、年に1回はエキゾチックアニマルに対応した動物病院で健康診断を受けることを推奨します。フクロモモンガの診察に慣れた獣医師であれば、麻酔下での口腔内検査やレントゲン撮影によって、臼歯の状態や歯根の異常まで確認できます。歯周病は初期段階であればスケーリング(歯石除去)で改善が見込めるケースがあり、状態に応じて投薬が行われることもあります。
ただし、歯周病は再発しやすいため、治療後も継続的な管理が求められます。早期発見のメリットは大きいため、定期健診を習慣にしてください。

フクロモモンガに噛まれると、針で刺されたような鋭い痛みを感じることがあります。これは下顎の切歯が細く尖っているためです。野生では樹皮に穴を開けるための形状が、飼い主の指に対しても同じように作用します。威嚇や恐怖から本気で噛んだ場合は出血を伴うこともあり、噛み傷は小さくても意外に深いことがあります。流水で十分に洗浄し消毒したうえで、腫れや熱感が出た場合、出血が止まらない場合は医療機関を受診してください。
フクロモモンガが食事中や毛づくろいの際に「ジョリジョリ」「カチカチ」という音を出すことがあります。多くの場合、これは上下の歯が擦れ合って生じる音で、病的なものではありません。ただし、食事をしていないタイミングで頻繁に歯を鳴らしている場合は、口腔内の違和感や痛みのサインである可能性もあるため、食欲低下、よだれ、口元を気にする仕草など他の症状がないか併せて観察してください。
フクロモモンガの歯は、もともとやや黄色みを帯びた象牙色をしています。人間の歯のように真っ白ではないため、健康な状態でも黄色く見えることがあります。ただし、茶色や黒っぽい変色が見られる場合は歯石の沈着、着色、外傷による変色、感染などの可能性があるため、動物病院での確認を推奨します。
フクロモモンガの口の中には一般に40本とされる歯が並んでおり、その1本1本が野生での食生活に適応した形状を持っています。飼育下では食事内容や環境の違いから歯周病・破折・不正咬合といったトラブルが起こりやすく、一度傷んだ歯は自然には再生しません。
日頃からペレットや昆虫を取り入れたバランスの良い食事を心がけ、ケージ内の安全対策を施し、月に1〜2回の口腔チェックと年1回の動物病院での健診を習慣にすることで、歯のトラブルを未然に防ぐことができます。
小さな体だからこそ、口の中の異変が全身の健康に直結するのがフクロモモンガという動物です。歯の状態に気を配ることが、長く健やかな暮らしを支える土台になります。



