うさぎを飼っている方なら、「うさぎの歯は伸び続ける」という話を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。実際、うさぎの歯は生涯を通じて伸び続ける「常生歯(じょうせいし)」と呼ばれる特殊な構造を持っており、適切なケアを怠ると不正咬合(ふせいこうごう)という深刻なトラブルを引き起こすことがあります。
この記事では、うさぎの歯の基本的な仕組みから、不正咬合の原因・症状、そして毎日の生活の中でできる予防法まで、飼い主として知っておきたい情報を詳しくお伝えします。早期発見と適切なケアで、うさぎの歯の健康を守りましょう。
うさぎの歯の構造と特徴

常生歯という特殊な仕組み
うさぎの歯は、犬や猫とはまったく異なる構造を持っています。人間の歯は一度生え揃うと伸びることはありませんが、うさぎの歯は一生涯にわたって伸び続けます。これは「常生歯」と呼ばれる特徴で、野生のうさぎが硬い草や木の皮をかじり続ける生活に適応した結果、進化の過程で獲得したものです。
切歯はおおむね週に数mm単位で伸び、奥歯(頬歯)も連続的に伸びます。伸びる速度は個体差や歯種・食餌条件で変動します。健康なうさぎであれば、牧草を食べたり歯同士が噛み合ったりすることで自然とすり減り、適切な長さが保たれます。しかし、何らかの理由でこのバランスが崩れると、歯が異常に伸びてしまうトラブルが発生するのです。
うさぎの歯は全部で28本
うさぎの口の中には合計28本の歯が生えています。上顎に切歯が4本(大きな前歯2本と、その裏側にある小さな歯2本)、下顎に切歯が2本あります。また、上顎に臼歯が12本、下顎に臼歯が10本あり、これらが複雑に噛み合うことで食べ物をすりつぶしています。
特徴的なのは、上顎の切歯の裏側にある小さな歯で、これは「小切歯」と呼ばれています。この小切歯があることで、下顎の切歯がちょうど上顎の切歯と小切歯の間に収まり、噛み合わせが安定する仕組みになっています。
不正咬合とは

不正咬合とは、うさぎの歯が正常に噛み合わなくなってしまう状態を指します。歯が伸びすぎたり、噛み合わせがずれたりすることで、食事がうまくできなくなったり、伸びた歯が口の中を傷つけたりするトラブルです。
切歯の不正咬合は外から見てわかりやすいのですが、臼歯の不正咬合は口の奥で起こるため、飼い主が気づきにくいという問題があります。気づいたときにはかなり進行していた、というケースも少なくありません。不正咬合はうさぎで非常に一般的な健康問題の一つであり、すべてのうさぎ飼い主が知っておくべき疾患です。
不正咬合の主な原因
牧草不足による摩耗の低下
不正咬合の原因として最も多いのが、牧草の摂取量不足です。うさぎの歯は牧草を食べる際の「すりつぶす動き」によって自然と削られていきます。
ところが、ペレットやおやつの与えすぎで牧草を食べる量が減ると、歯を削る機会が失われてしまいます。ペレットは噛む回数が少なくて済むうえ、牧草のように歯をすり減らす効果が少ないです。特に若いうちからペレット中心の食生活を送っていると、成長とともに不正咬合のリスクが高まっていきます。
ケージをかじる癖
ケージの金網をガリガリとかじる癖のあるうさぎは、切歯の不正咬合を発症しやすい傾向があります。金網は牧草と違って歯を均等にすり減らす効果がなく、むしろ歯に偏った力がかかることで噛み合わせがずれてしまいます。
うさぎがケージをかじる理由としては、外に出たい、退屈、ストレス、飼い主の気を引きたいなど、さまざまなものが考えられます。かじり行動自体を叱るのではなく、かじる原因を取り除く工夫をすることが解決への近道です。へやんぽの時間を増やしたり、かじり木やおもちゃを与えたり、ケージを金網タイプからプラスチックタイプに変更したりする方法が有効です。
外傷や落下事故
うさぎは骨が細くて脆いため、落下事故や衝突によって顎や歯を傷めることがあります。抱っこ中に暴れて落下した、ケージの高い段から飛び降りた、部屋の中で何かにぶつかったといった事故がきっかけで、歯の根元や顎の骨にダメージを受けることがあるのです。
一度傷ついた歯根は正常に歯を伸ばせなくなることがあり、曲がって生えてきたり、伸びる速度が変わったりします。その結果、噛み合わせが徐々にずれていき、不正咬合へと発展してしまいます。うさぎを抱っこするときは低い姿勢で行い、万が一暴れても大きなケガにつながらないよう気をつけましょう。
加齢による変化
シニア期に入ったうさぎは、加齢に伴って不正咬合を発症するリスクが高まります。年齢とともに顎の筋力が衰えたり、歯の摩耗と成長のバランスが変化したりすることが原因と考えられています。
若いころは問題なく過ごせていても、5歳、6歳を過ぎたあたりから少しずつ噛み合わせがずれてくることがあります。シニアうさぎの飼い主は、より注意深く歯の状態を観察し、少しでも異変を感じたら早めに動物病院を受診することをおすすめします。
不正咬合のサインと症状

食欲の低下と食べ方の変化
不正咬合の初期症状として最もわかりやすいのが、食欲や食べ方の変化です。歯に問題が生じると、食べ物をうまく噛み砕けなくなるため、食事に時間がかかったり、途中で食べるのをやめてしまったりします。
具体的には、牧草を手に取っても食べずに落としてしまう、ペレットを口に入れてもポロポロとこぼす、以前より食べる量が明らかに減った、といった様子が見られます。好きだったはずのおやつにも興味を示さなくなった場合は、かなり症状が進んでいる可能性があります。
よだれと顎周りの汚れ
歯の噛み合わせが悪くなると、うまく口を閉じられなくなるためよだれが垂れやすくなります。顎の下や前足の内側が濡れていたり、毛がゴワゴワに固まっていたりする場合は、不正咬合のサインかもしれません。
また、よだれで濡れた状態が続くと、皮膚炎を起こしてしまうこともあります。顎周りの毛が抜けていたり、赤くただれていたりする場合は、不正咬合に加えて皮膚のトラブルも発生している状態です。
涙や目やにの増加
一見すると歯とは関係なさそうですが、目から涙や目やにが出るのも不正咬合の代表的な症状の一つです。これは、うさぎの上顎の臼歯の根元が目の近くにあるためで、歯根が異常に伸びると涙を排出する管(鼻涙管)を圧迫してしまいます。
涙が正常に排出されなくなると、目頭に涙が溜まったり、目やにが増えたり、ひどい場合は目の周りの毛が常に濡れた状態になったりします。目のトラブルが続いているのに原因がわからない場合は、歯の問題が隠れている可能性を考えてみてください。
うんちの変化
不正咬合によって食事量が減ると、うんちの大きさや量にも変化が現れます。健康なうさぎのうんちはコロコロとした丸い形をしていますが、不正咬合になると小さくなったり、量が減ったり、形がいびつになったりすることがあります。
毎日うんちの状態をチェックする習慣をつけておくと、体調の変化に早く気づけます。掃除のときにうんちの大きさや量を確認し、普段と違う様子があれば他の症状がないかも合わせて観察してみましょう。
顔の左右非対称や腫れ
症状が進行すると、顔が左右非対称に腫れることがあります。これは、伸びすぎた歯根が顎の骨を圧迫したり、歯根に膿が溜まる「根尖膿瘍(こんせんのうよう)」を発症したりするためです。
頬のあたりにしこりができていたり、顎の下が膨らんでいたりする場合は、すでにかなり症状が進んでいる状態です。根尖膿瘍は外科的な処置が必要になることも多く、治療が長期化するケースもあります。ここまで進行する前に発見できるよう、日頃からうさぎの顔をよく観察しておきましょう。
動物病院での治療

定期的な通院の必要性
残念ながら、不正咬合は一度発症すると完治が難しい病気です。歯を削る処置を受けても、歯は再び伸びてくるため、定期的な通院が必要になります。症状の程度によりますが、数週間から数か月ごとに歯の状態をチェックし、必要に応じて削る処置を繰り返すことになります。
定期的な通院は飼い主にとっても経済的・時間的な負担となりますが、適切な管理を続けることでうさぎは快適に過ごすことができます。かかりつけの動物病院を決めておき、長期的にケアを続けていく心構えを持っておきましょう。
治療費の目安
不正咬合の治療費は、処置の内容や麻酔の有無によって大きく異なります。切歯の処置であれば1回あたり2,000〜5,000円程度、臼歯の処置で麻酔を使用する場合は1回あたり1万〜3万円程度が目安となります。ただし、これはあくまで一般的な目安であり、動物病院や地域によって差があります。
また、レントゲン検査や血液検査、根尖膿瘍の手術などが必要になると、さらに費用がかかります。不正咬合は長期的な管理が必要な病気であることを踏まえ、ペット保険への加入や治療費の積み立てなども検討してみてください。
自宅でできる予防法

牧草中心の食生活を徹底する
不正咬合を予防するために最も効果的なのは、牧草をたっぷり食べさせることです。牧草、特にチモシーはうさぎの主食として理想的で、硬い繊維を噛み砕く動きが歯の自然な摩耗を促します。
食べ放題の状態でいつでも牧草を食べられる環境を整え、ペレットは決められた量を与えるように制限しましょう。おやつの与えすぎにも注意が必要です。牧草をあまり食べないうさぎの場合は、牧草の種類を変えてみたり、複数の種類を混ぜてみたり、手から与えてみたりと、食べてもらう工夫を試してみてください。
かじり木やおもちゃの活用
ケージをかじる癖があるうさぎには、かじっても安全なおもちゃやかじり木を用意してあげましょう。りんごの木や柳の木でできたかじり木、へちまやトウモロコシの皮で作られたおもちゃなど、さまざまな製品が販売されています。
ただし、かじり木やおもちゃは歯の摩耗にはあまり効果がないとも言われています。あくまでケージかじりの代替行動を促すためのものと考え、歯の健康には牧草を食べさせることを優先しましょう。
定期的な健康チェック
自宅での定期的な観察も予防の一環です。毎日の食事量やうんちの状態をチェックするほか、週に1回程度は切歯の状態を確認する習慣をつけるとよいでしょう。うさぎの唇をそっとめくると切歯が見えますので、長さや噛み合わせに異常がないか確認してみてください。
臼歯は自宅で確認するのが難しいため、半年に1回程度は動物病院で健康診断を受けることをおすすめします。獣医師に口の中を診てもらうことで、初期の不正咬合を発見できる可能性があります。早期発見・早期対処が、うさぎの歯の健康を守る鍵です。
事故を防ぐ環境づくり
落下事故や衝突による歯のトラブルを防ぐために、安全な飼育環境を整えることも大切です。ケージ内に高すぎる段差を作らない、部屋んぽ中は目を離さない、抱っこは低い姿勢で行うなど、事故のリスクを減らす工夫をしましょう。
フローリングの床は滑りやすく、うさぎが転倒する原因になります。部屋んぽをさせる場所にはマットやカーペットを敷いて、足元の安全を確保してあげてください。
まとめ
うさぎは痛みや不調を隠す傾向があるため、飼い主が日頃から注意深く観察し、小さな変化に気づいてあげることが求められます。うさぎが健康で快適な毎日を送れるよう、歯の健康にも気を配っていきましょう。