犬でも猫でもない、「小さな家族」と暮らす日々。近年、うさぎやモルモット、チンチラなど、小動物を家族として迎える人が増えています。しかし、彼らを専門的に診療できる動物病院はまだ多くはなく、飼い主が「本当に頼れる場所」を見つけるのは簡単ではありません。
小動物メディアMinimaは、この課題に向き合うため、エキゾチックアニマルに特化した動物病院の情報共有サービス「ミニケア」を立ち上げます。
サービス開始に先立ち、特別連載「エキゾのはなし。」をスタート。飼い主、事業者、そして獣医師の方々に登場いただき、エキゾチックアニマルとの暮らしや、ケアの現状と課題について様々な視点から語っていただきます。
第7回のゲストは、茨城県つくば市で「うさぎの病院つくば」を開業した古谷昌大先生。犬や猫を診ず、うさぎと小動物だけを専門に診療する病院として注目を集めています。開業から1年を迎えた今、うさぎたちと向き合う日々の思いを伺いました。
開院から1年を振り返って
——今年1月の開院から、もうすぐ1年が経とうとしています。これまでを振り返っていかがですか?
周りにうさぎやエキゾチックアニマルを診られる病院が少ないというのもあって、「病院ができてよかった」という声を多くいただきました。ありがたいことに、遠方から来てくださる方も多いです。
一番遠い方は福島県福島市から片道3時間。定期的に通われている方でも東京、埼玉、千葉、栃木など、関東一円から来院されています。 想定していたよりもずっと多くの飼い主さんに来ていただいていて、必要とされている実感があります。
ウサギの専門病院だからこそできるケアとは? 「うさぎの病院 つくば」古谷院長に聞く
——そもそも、つくばでの開業を決めた理由を教えてください。
専門病院が少なく、人口が増えている場所で、さらに車でアクセスしやすいことが条件でした。車社会なので、駐車場の台数やインターチェンジから近いなど通いやすさを重視しました。
——やはり病院を知るきっかけはSNSやネットが多いのでしょうか?
そうですね。ホームページやSNSを見て来られる方がほとんどです。SNSを通して「うさぎを専門に診てもらえる病院」と知ってもらえるのは嬉しいです。
当院インスタグラムはうさぎの飼育方法や病気についての発信、うさドックやホテルをご利用になられた子の写真などを掲載しており、スタッフのお陰もあり、開業から1年で約5000名の方にフォローしていただいてます。
——診療されている動物の割合はどのくらいでしょう。
うさぎが9割、残り1割がモルモット、チンチラ、ハムスター、デグーといった小動物です。犬や猫は診ていません。手術も行っていますが、うさぎ以外の動物でも、対応可能な範囲でしっかり診療しています。
健診プラン「うさドック」と適切な健診の頻度は?
——「うさドック」という名前の健診プランも提供されていますね。
開業当初から行っています。内容は、全身の触診、心音・呼吸音の聴診、歯のチェック、レントゲン、血液検査が基本ですね。より詳しい検査をご希望される場合は、超音波検査で肝臓や腎臓、心臓などもチェックしています。
3つのコースを設けていますが、スタンダードコースを選ばれる方が一番多いです。検査で何も異常がなくても「安心した」と喜ばれる方も多いですし、実際に肝臓の数値異常や腫瘍が早期に見つかり、すぐ治療につながったケースもあります。
——うさドックではフォトサービスもあると伺いました。
健診を受けてくださった方に、季節ごとのフォトブースでうさぎの写真を撮影するサービスを行っています。 夏は祭り風の小物を使ったり、秋はハロウィンの装飾にしたりと、季節感を大事にしています。
その写真をSNSにも掲載しているのですが、「病院なのに癒やされる」「うちの子が可愛い」と好評です。スタッフが一生懸命セットを作ってくれていて、病院のロゴや内装も、全体的に“可愛らしい雰囲気”で統一しています。来院される飼い主さんは女性が多いので、スタイリッシュさよりも可愛さや親しみやすさ、温かさを大事にしています。
——健診の頻度はどのくらいが理想ですか?
若い子なら年1回、中高齢(4歳以降)なら年2回以上がおすすめです。 3か月の間に体調が変わることもあるので、頻繁に受けていただくのが安心です。爪切りなどで2〜3か月に1回でも来院してもらえるといいですね。健康なときから病院や移動に慣れておくと、いざというときにもストレスが少なく済みます。早期発見・早期治療のためにも大切です。
「わずかな異変に気づくことが、命を守る第一歩」
——開業から今までの治療で、印象に残っている症例はありますか?
歯の根元に膿がたまる「歯根膿瘍(しこんのうよう)」の手術ですね。治りにくい病気ですが、早期発見、早期治療治療ができれば経過が良くなる子もいます。他の病院では、膿を針で抜くだけにとどまることもありますが、それでは再発してしまうことが多いので、できるだけ早い段階で手術を行うことで、良好な経過を辿る子もいます。 飼い主さんも術後の様子を見て「手術してよかった」と仰ってくれて、嬉しかったです。
他にも、胃拡張で元気がなくなったうさぎが、入院治療で無事回復して退院したケースもありました。うさぎは本当にデリケートな動物のため、状態が悪い子だと触れただけで急変してしまうこともあります。診察では急変リスクがある子に対しては「一見問題なさそうでも危険な状態」ということを、事前にしっかり説明するように心がけており、わずかな異変に気づくことが、命を守る第一歩と感じています。
——犬や猫を診ない方針を決めたとき、不安はありませんでしたか?
もちろん最初はありました。しかし、開業してみると「うさぎを診てほしい」という飼い主さんが予想以上に多かったです。今は「専門に特化しているからこそ、当院を選んでいただけている」と感じることも多いです。
最近は「猫専門」や「皮膚科専門」など、動物医療も細分化が進んでいて、特化した病院の需要は確実にあります。犬猫を広く診るより、「うさぎだけを診る」ことで信頼を得られる実感があります。
うさぎの専門病院として今後目指すこと
——今後、病院として取り組みたいことはありますか?
専門病院なのでより専門性や高度な医療に対応していきたいと考えており、少量の血液量で検査が実施できる血液検査機器を導入し、今までは検査が難しかった身体の小さな子でも検査を実施できるようにしていく予定です。また手術時に使用する出血リスクを抑える機器の導入も検討しており、その機器により手術時間の短縮でき、結果として麻酔時間の短縮にな繋がるため身体への負担を減らすことができます。
また、つくば市内でも「うさぎの病院がある」と知らない方がまだまだ多いので、SNSを通じてもっと発信し、うさぎの正しい飼育方法や食事についても、情報を届けていきたいと思っています。
——エキゾチックアニマル医療のこれからについては、どう感じていますか?
うさぎや小動物を診る病院は少しずつ増えていますが犬猫と比べ解明されていない点も多く悩むこともありますが、1匹でも多くの命を救えるよう日々の診療に向き合っていきたいと思っています。飼い主さんが迷わず動物病院を選択できるような専門性を持った病院が増えれば、救われる命も確実に増えると思います。