犬でも猫でもない、「小さな家族」と暮らす日々。近年、ハリネズミやフクロモモンガ、爬虫類などのエキゾチックアニマルを飼育する人が増えています。しかし、彼らを診療できる動物病院は限られており、いざという時に頼れる場所を見つけられないという課題があります。
小動物メディアMinimaは、この課題に向き合うため、エキゾチックアニマルに特化した動物病院の情報共有サービス「ミニケア」を立ち上げます。
サービス開始に先立ち、特別連載「エキゾのはなし。」をスタート。飼い主、事業者、そして獣医師の方々に登場いただき、エキゾチックアニマルとの暮らしや、ケアの現状と課題について様々な視点から語っていただきます。
第2回のゲストは、動物看護の専門学校を卒業後、ペットショップで12年以上働いた経験を持つ「杏仁とおしるこ(@mol_annin)」さん。愛するモルモットの杏仁くんと一緒に不正咬合と向き合い、本当に信頼できる動物病院を見つけるまでの道のりをお伺いしました。
適切な治療ができる病院を見つけるまで
——杏仁くんの不調に気づいたきっかけを教えてください。
本当に突然でした。前日まで普通にご飯も食べていたし、歩き回っていたんです。何の不調もなくて。でも、ある日「なんか眠たそうにぼやっとしてる」ような様子に気づいて。それが最初のきっかけでした。
ペットショップで働いていたので、前歯のチェックなど、自分でできる範囲の健康管理はほぼほぼやっていたんです。それでも奥歯までは見ることができなくて。そもそもモルモットの奥歯って、特別な器具を使わないと見れないんですよね。
元気な頃の杏仁くん——その後、診断は不正咬合だったんですね。
そうです。最初は別の症状から始まったんですが、結局はものすごい不正咬合でした。いろんな症状が併発して、本当に大変な状態になってしまって。そこから2年9ヶ月という長い闘病生活が始まりました。
——最初はどちらの病院に行かれたんですか?
家から徒歩2、3分の動物病院に行きました。「ウサギも診ています、モルモットも診られます」ということだったので。実際、診察自体は可能で、前歯を切るところまではできました。ただ、奥歯の処置になると「うちは設備がない」と言われて。
そこで紹介されたのが次の病院でした。ウサギの歯学会に所属している院長先生がいて、ペットホテルも併設している大きめの病院です。専門的な療法食も販売していて、ウサギに強いというのが売りの病院でした。

——そこなら安心だと思われたんですね。
最初はそう思いました。でも、初診の時に口の中を見て、レントゲンも撮らずに「様子を見ましょう」と。明らかに症状が出ていて、前の病院から「うちでは無理」と紹介されたのに、なんだかパスされたような感覚を受けたんです。
2回目の予約での歯処置は無麻酔で10〜15分くらいで終わって。終わってみたら杏仁くんがぐったりで。本当にちゃんと処置してくれているのか、説明もなくて不安になりました。
——結局、どこで適切な治療を受けられたんですか?
最終的に駒込の「日本エキゾチック動物医療センター みわエキゾチック動物病院」にたどり着きました。初診の時から詳しいレントゲンを撮って、口の状態を見て「こうでこうで、こういう状況ですね」という説明が、自分の中ですごく腑に落ちたんです。「ここにお任せしよう」と思えました。
ただし自宅からは遠くて、診察時間に合わせると通勤ラッシュにぶつかるので、特急を使ったりいろいろ工夫しながら通いました。弱っている子を抱えての長時間移動は本当に大変でしたね。
——埼玉県内では適切な病院が見つからなかったんですね。
浦和方面にはエキゾチックアニマルを診る病院もあると聞きますが、交通事情的に都内に出た方が早いくらいで。1時間圏内で行ける範囲となると、選択肢は限られてしまいました。
Xでつながっているモルモットの飼い主さんは、長野からわざわざ駒込まで通っていました。朝の暗いうちから出発して。残念ながら最近旅立ってしまったのですが、そこまでしなければいけないくらい、地域によっては専門の先生がいないんだなと実感しました。
杏仁くんのケア生活の大変さと、動物病院選びの気づき
——ご自身のnoteでも書かれていましたが、杏仁くんの治療が始まってからの生活について教えてください。
強制給餌の生活は、診断されてから亡くなるまでずっと続きました。時間が経った今だから笑って話せますが、当時は本当に体力的にも辛くて。フルタイムで仕事をしながらでしたから。
たとえば、強制給餌のためのシリンジを1日100本を目標にするとなると、それを一定の期間の中で分割してあげなければいけなくて。朝6〜7時台に30分かけて給餌して、そこから仕事に行って12時間は帰ってこれない。次にあげられるのは早くても19時台。杏仁の体重を落とさずに、目標の量を食べさせるために時間を削っていったら、結局睡眠時間を削るしかなく。
強制給餌が始まった杏仁くん——大事な我が子だからこそ、できることはしてあげたいと思いますよね。
そうなんです。「できない」とは思えなくて、「自分がやればいい」って思ってしまって。実際、当時は在宅勤務もあったので、うまくできていた時期もありました。でも今はフル出社になってしまって、もしまた同じ状況になったら……と現実的に考えると難しいですね。
——複数の病院を経験されて、何か気づいたことはありますか?
あくまで私の場合はではありますが、比較的若い先生の方がモルモットに対する知識が多いと感じました。ベテランの先生は昔の知識の中で診療されている部分があるけれど、最近の若手の先生は大学でしっかり学んでいる。質問に対して腑に落ちる回答をしてくれるのは若い先生が多かったです。
また、同じ病院でも先生によって全然違うこともありました。いつもの主治医の先生じゃない時に緊急で診てもらうと「前のカルテ見たけど、そんな感じじゃないと思うけどね」みたいな。

——セカンドオピニオンの重要性を感じますね。動物病院を変えるというより、先生を変えるという意味合いも大きいと思います。
先生も人間である以上、相性もありますし。曜日で先生が分かれている病院なら、角が立たないように曜日を変えるのもいいかもしれません。爬虫類が得意、鳥が得意という先生がいるように、「モルモットを診たことがある先生はいますか?」としっかり最初に受付で相談するのも方がいいかもしれません。
小動物を飼う人へ伝えたいこと
——現在はおしるこちゃんと暮らしているそうですね。
そうですね。健康診断でも「何の問題もない子です」と言われて、元気に暮らしています。杏仁がいた頃は性別が違うので長時間一緒にすることはなかったのですが、今は1日中走り回っていて、甘えん坊度が上がったような気がします。
——杏仁くんの経験を経て、接し方は変わりましたか?
普段のケアについては特に変えたことはないです。ただ、あの経験があるからこそ、ちょっとした変化にも気を配るようになったかもしれません。

——小動物の飼い主さんへ伝えたいことはありますか?
病院選びについては、まず近くでエキゾチックアニマルを診られる病院があるか確認することが大切です。いざという時、救急で診てもらいたい場面も出てくると思うので、近くに頼れる病院があることが、家族として迎える前の準備として重要だと思います。
そして、同じくらい相性の合う先生を見つけることも大切なのではないかと思っています。院長先生などではなくても、若手の先生でも十分に手を差し伸べてくれることもあります。「うちの子に合う先生」と出会うチャンスを逃さないでほしいです。
毎日を一緒に過ごす子だからこそ、いつかはやってくるお見送りの時、後悔しないように、最高のお世話と最高のケアを日々心掛けてほしいと心から思います。

——最後に、ミニケアへの期待をお聞かせください。
こうして動物病院の情報がまとまって見られるようになるのは、本当にありがたいです。知らなかった病院を知るきっかけにもなりますし、ほかの飼い主さんの体験が参考になる場ができるのは、とても心強いと思います。
同時に、これからは病院側にも“小動物を診ることの価値”がきちんと伝わっていく仕組みができるといいですよね。うさぎ専門病院のように、モルモットやハムスターなど小動物にも特化しつつ、「犬猫も診ます」くらいの柔軟なスタイルの病院がもっと増えていったら素敵だなと思います。飼い主が増え、需要が可視化されていけば、自然とその輪も広がっていくのではないでしょうか。
Minimaでは「ミニケア」の本格始動に向けてクラウドファンディングを11月4日より実施します。
小さな命を守るために、エキゾチックアニマルの診療環境を一緒に変えていきませんか。あなたの応援が、誰かの大切な家族を救うことにつながります。
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