連載
ココニイル動物病院・芝﨑院長がマーモット診療の最前線で考える、エキゾ医療の本質とは【エキゾのはなし。#11】
犬でも猫でもない、「小さな家族」と暮らす日々。近年、ハリネズミやフクロモモンガ、爬虫類などのエキゾチックアニマルを飼育する人が増えています。しかし、彼らを診療できる動物病院は限られており、いざという時に頼れる場所を見つけられないという課題があります。
小動物メディアMinimaは、この課題に向き合うため、エキゾチックアニマルに特化した動物病院の情報共有サービス「ミニケア」を立ち上げます。
サービス開始に先立ち、特別連載「エキゾのはなし。」をスタート。飼い主、事業者、そして獣医師の方々に登場いただき、エキゾチックアニマルとの暮らしや、ケアの現状と課題について様々な視点から語っていただきます。
第11回のゲストは、東京都中野区にある「ココニイル動物病院」の芝崎院長。マーモット村さんと提携し、マーモットの健康診断を手がける数少ない獣医師として、未知の領域に果敢に挑み続けています。エキゾチックアニマルの診療への思いと、終末期ケアへの新たな取り組みについてお話を伺いました。
「断らない診療」がキャリアの原点
——芝崎先生がエキゾチックアニマルの診療を始めたきっかけを教えてください。
学生時代から動物に興味があって、いろんな動物を診られるようになりたいと思っていました。当院が所属するアリーズグループの本院、笹塚アリーズ動物病院が犬猫もエキゾチックアニマルも診ていて、そちらに新卒で入社しました。当時はエキゾチックアニマル診療の立ち上げ期でしたが、院長に「(どんな動物も)断るな」と言われていました。なので、1年目からずっとそのスタイルでやってきました。
——現在、犬猫とエキゾチックアニマルの比率はどのくらいですか?
大体半々から、犬猫が6割、エキゾチックアニマルが4割くらいですね。うちはありがたいことに「エキゾチックアニマルを診てくれる病院」として認知していただけているので、遠方から来られる方もいらっしゃいます。
獣医療は、犬猫もエキゾチックアニマルも大筋は変わらない
——マーモット村さんとの提携についてお聞かせください。
最初はメールをいただいて、正直どうしようかと社内で検討しました。ですが拠点も近いですし、これもご縁だと思ってお引き受けしました。僕自身もいろんな知見を得させてもらっていますし、刺激的な日々を過ごしています。
——マーモットを見るのは初めてだったんですか?
全く初めてでしたね。動物園でもなかなかいない動物ですから。「マーモット村」と言われて、まず「マーモットってどんな動物だろう?」というところから調べ始めました。ドクターマーモットさんのページにたどり着いて、詳しいことを知りました。でも、ジリスやプレーリードッグのような動物と近いため、その延長線上で診られるだろうと判断しました。
——実際に診療を始めてみていかがでしたか?
基本的なところは一緒だと思いましたが、細かい部分が分かっていないことが多かったですね。ただ、マーモット村さんからも「一緒に知見を作り上げていきましょう」と言っていただいたので、そういう形式ならやれるなと思えました。知らないことを開拓していくのも好きなので、現在はうまくやれています。
——具体的には、どんなことが分かっていないのでしょうか?
まず血液検査では、基準値が見当たらないです。そもそもデータがない。だから、どうなったら病気なのか、どういう病気があるのかすら分かっていない状態で、他の動物の知識を当てはめながら診ていくしかない。本当に手探りですね。
——それは大変ですね。
今、当院でデータを収集していて、どこかのタイミングで世に出していく形になると思います。学会発表ができるくらいのデータは集まっていて、病気の子が来た時に「ここが異常だな」と感覚的にわかるくらいにはなってきました。
——そのほか、診療で難しいと感じることはありますか?
まだ人に慣れていない子たちの診療は難しいですね。6〜7キロあるので、保定するのも一苦労です。歯も鋭いので、噛まれないように注意が必要ですね。
——エキゾチックアニマル全般で言うと、診療にはどんな難しさがありますか?
できることが限られるということですね。マーモットくらいの大きさがあれば色々できますが、ハムスターやハリネズミ、チンチラやデグーとなると、全身麻酔をかけて手術するにも犬猫よりリスクが高い。だから、手術に至る前の予防段階が大事になってきます。
——そもそも、エキゾチックアニマルと一口に言っても広範な種類がいますが、どのようにして対応しているのでしょうか?
10年以上やってきて思うのは、どの動物も大筋は変わらないということです。体の構造や対処法などは基本的に同じで、あとは細かい部分、その動物特有の派生した部分があるだけ。だからこそ、獣医療の最先端を走っている犬や猫のことをしっかり勉強しつつ、その知識をエキゾチックアニマルに活かしていくことが大事だと思っています。
マーモットを診られる動物病院はある?「マーモット村」代表に聞く、飼育事例の少ない生き物との暮らし【エキゾのはなし。#1】
検査をしない診断は、本当に正しいのか
——一方で、エキゾチックアニマル診療の課題について、どのようにお考えですか?
僕は「犬や猫と同じ水準でエキゾチックアニマルも診てあげたい」という信念を持っています。でも、エキゾチックアニマル診療の世界では、診断をつけない獣医さんが結構いらっしゃいます。「この子は今こういう状態です」とは言うけど、「こういう病気です」と診断はしない。
本来であれば検査をした上で診断すべきものですが、経験則で言い切ってしまうパターンが多いです。
——どういった問題が生じるのでしょうか?
セカンドオピニオンで来られた方を検査すると、「全然違う病気だった」ということがすごく多いです。犬猫の診療をやっていると、「検査なしでは言い切れない症状でしょう」と思えてしまう診断をされていることがあって。それはダメだよね、と思います。
——検査をしない理由は何でしょう?
検査に手間がかかる子もいますし、(犬や猫と比較して)単価が上がりづらいという側面もあるかもしれません。うちでは犬猫とほぼ同じ機材・器具でエキゾチックアニマルの検査もできる範囲内のことはやっています。血液検査、レントゲン、超音波、糞便検査、尿検査…。それらをしっかりやることで、きちんとした診断ができます。
——エキゾチックアニマルを飼育する人は、年々増えているように感じますが、時代の変化もあるのでしょうか?
そうかもしれないですね。昔は飼育技術や栄養学的な知識が不足していて、それを正してあげれば治る子が8〜9割だったんです。でも今は、飼い主さんも情報を仕入れて、ちゃんと飼育している人が多い。それなのに「飼育が悪い」と言われても説得力がないですよね。時代の変化に対応して、エキゾチックアニマルを診療する場合でもしっかりとした診断をしていける時代になると良いなと思います。
終末期ケアへの挑戦。漢方と鍼灸という選択肢について
——今後、獣医師として取り組んでいきたいことはありますか?
最近はシニアケア、ターミナルケア(終末期ケア)にものすごく力を入れています。動物たちは私たちより先に寿命が来てしまう。ほぼ全ての飼い主さんが自分の子を見送らなければいけない。その時に後悔が少なくなるように、最後の瞬間をなるべく綺麗に迎えられるようにできることはないかと、常に模索しています。
——具体的にはどのようなことを?
漢方と鍼灸です。鍼灸の認定も取得しました。言い方は難しいですが、獣医を10年やっている中で、自分の技量を超えてしまったり、薬でどうにもできなくなる子に出会うことがあります。その時の無力感が大きかったんです。でも、他の病院で鍼灸と漢方で良くなった患者さんの話を聞いて、そういうものが効くんだなと。そこから挑戦してみたいと思うようになりました。
——鍼灸は動物にも効果があるのですか?
事例として、老齢で立てなかった子が立てるようになったりします。自分でもやってみるまで「本当かな?」と思っていたんですけど、効く子は効くんです。漢方も、実際に当院でウサギに使っている子がいますし、マーモットの子にも何匹か試してもらっています。
——漢方とエキゾチックアニマルの相性はいかがですか?
漢方って生薬なので、草や木の実が元になっています。草食獣は元々そういうものを食べていたはずだから、相性はいいんじゃないかと思って。実際、マーモットで漢方を使っている子の中に、結構調子が良くなってくれている子がいます。
——終末期だけでなく、それ以外の場面でも使えるのでしょうか?
そうですね。終末期というよりは、「調子は悪いんだけど、どの病気に当てはめたらいいかわからない」とか、「薬を使い続けるのはちょっとな…」という子に対して使っています。病名がつかないけど不調な子、薬に頼りたくない子。そういう子たちに新しい選択肢を提供するために、日々学びを続けています。
Minimaでは「ミニケア」の本格始動に向けてクラウドファンディングを実施しています。
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記事の執筆者
- Minima編集部
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