デグーを飼っていると、ふと「この子の歯、大丈夫かな?」と気になる瞬間があるのではないでしょうか。前歯がオレンジ色になってきた、最近なんだか食べ方がおかしい、よだれが増えた気がする……。そんな小さな変化が気になる方は多いはずです。
結論からお伝えすると、デグーの歯は切歯(前歯)も臼歯(奥歯)もすべて一生伸び続ける「常生歯」と呼ばれるタイプの歯で、日々の食事で自然に削れることで適切な長さが保たれています。この仕組みが何らかの原因でうまく機能しなくなると、噛み合わせに異常が出る「不正咬合(ふせいこうごう)」という病気につながります。デグーは飼育下で歯科トラブルが起きやすい動物として知られており、保護施設での集団調査では歯科異常の有病率が約35%にのぼるという報告もあります。
この記事では、デグーの歯の基本的な構造や特徴から、不正咬合の原因・見分け方・治療法・日常の予防策までをくわしくまとめました。
デグーの歯の基本構造と特徴

切歯と臼歯、すべてが伸び続ける「常生歯」
デグーはげっ歯目ヤマアラシ亜目に属する動物で、その名の通り「齧る(かじる)ための歯を持つ動物」の仲間です。デグーの歯は上下合わせて20本あり、内訳は上下それぞれ2本ずつの切歯(前歯)計4本と、上下左右に4本ずつの臼歯(奥歯)計16本で構成されています。
ハムスターやマウスなどの「ネズミ亜目」では、伸び続けるのは前歯(切歯)だけで、奥歯は生え変わったあと伸びることはありません。しかしデグーが属するヤマアラシ亜目では、前歯だけでなく奥歯もずっと伸び続けるという特徴があります。この点がチンチラやモルモットと同じ仲間であることの証でもあり、同時にデグー特有の歯のトラブルを引き起こしやすい要因でもあるのです。
ちなみに、デグーの属名「Octodon(オクトドン)」は、臼歯の咬合面(噛み合わせ面)の模様が数字の「8」に似ていることに由来しています。ラテン語で「8」を意味する「オクト」からきており、デグーという生き物が古くからその歯の形で特徴づけられてきたことがわかります。
前歯のオレンジ色は健康の証
デグーを飼い始めた方がよく心配されるのが、前歯の色です。「うちの子の歯がオレンジ色なんですが、病気でしょうか?」という疑問を持つ方は少なくありません。
答えはシンプルで、デグーの前歯がオレンジ色になるのはまったく正常なことです。デグーの門歯(前歯)は生まれたばかりの頃は白いのですが、成長に伴って生後6か月頃にはオレンジ色へと変化していきます。この色合いにはエナメル質中の鉄を含む成分などが関与しているとされ、健康なデグーであればきれいなオレンジ色をしています。
逆に、成体のデグーで前歯が白っぽいままだったり、色がまだらになっている場合は、栄養状態に問題がある可能性や歯の健康に何らかの異常が生じているサインかもしれません。歯の色は健康状態を映し出す鏡のようなものですので、日頃から観察しておくとよいでしょう。
「硬いものを齧らせればOK」ではない
デグーの歯は牧草をすり潰すように咀嚼することで少しずつ削れていく仕組みになっています。そのため、「硬いものを齧らせれば歯が削れていいのでは?」と考えがちですが、これは誤解です。金属のような硬い素材を繰り返し齧ると、本来かからないはずの方向から力がかかり、歯が歪んだり欠けたりしてしまいます。デグーの歯にとって大切なのは硬さではなく、牧草を石臼のようにすり潰す動きだということを覚えておいてください。
なお、伸びた歯を自宅でカットしようとするのは絶対に避けてください。自己判断でクリッパーなどを使って切断すると、歯が縦に割れたり歯根を傷めたりする危険があります。歯の処置は必ずエキゾチックアニマル対応の動物病院で受けましょう。
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デグーがかかりやすい歯の病気「不正咬合」とは

不正咬合の仕組みと怖さ
不正咬合とは、文字通り歯の噛み合わせに異常が生じた状態のことです。デグーの歯は生涯伸び続けますが、正常な状態であれば食事の際に上下の歯がしっかりとこすり合わさって削れるため、適切な長さが自然に維持されます。ところが何らかの原因でこの摩耗のバランスが崩れると、歯がどんどん伸びてしまい、口の中にさまざまなトラブルを引き起こします。
デグーの不正咬合は切歯(前歯)よりも臼歯(奥歯)に多いのが特徴です。臼歯の不正咬合が起きると、上顎の奥歯は頬の内側に向かって、下顎の奥歯は舌に向かって棘のように鋭く伸びていきます。この棘状の突起が口の粘膜や舌を傷つけ、痛みから食事がとれなくなるという深刻な事態に陥るのです。
さらに厄介なことに、歯は口の中だけでなく歯根(歯の根元)側にも伸びていくことがあります。とくに上顎の臼歯の歯根が伸びると、すぐ近くにある鼻腔を圧迫して呼吸がしづらくなったり、目の周辺を圧迫して涙や目やにが増えたりすることもあります。デグーは本来鼻呼吸をする動物ですが、鼻腔が圧迫されると口で呼吸せざるを得なくなり、空気を飲み込んで胃にガスが溜まる「胃拡張」を併発するケースもあるのです。
不正咬合の主な原因
デグーが不正咬合になってしまう原因はいくつかありますが、その多くは日々の食事内容や飼育環境に関係しています。
まず最も大きな原因として挙げられるのが、牧草の摂取量不足です。デグーの歯が適切に削れるためには、繊維質たっぷりの牧草をしっかり咀嚼することが欠かせません。チモシーなどの牧草を食べる際、臼歯を使って上下にすり合わせる動きが歯の摩耗を促します。しかし、食事がペレット中心になっていたり、やわらかいおやつに偏っていたりすると、この咀嚼運動が不足して歯が削れにくくなります。ペレットは簡単に砕けてしまうため、臼歯をまんべんなく使う機会が減ってしまうのです。
次に多いのが、ケージの金網を齧る癖です。硬い金属を繰り返し噛むと歯が歪んだり、歯根に過度な負担がかかったりします。本来、歯には上下方向の力しかかからないはずが、金網齧りでは横方向からの不自然な力が加わるため、歯の生える方向自体がおかしくなってしまうことがあるのです。
さらに、遺伝的な要因で不正咬合になるデグーもいます。遺伝性の場合は同じ歯が繰り返し伸びやすく、より頻繁な歯の処置が必要になる傾向があります。
不正咬合を見逃さないための症状チェック

食欲の変化とよだれに注目する
デグーは野生下では捕食される側の動物であるため、体調不良を隠そうとする本能を持っています。そのため、飼い主さんから見て明らかに元気がないときには、すでにかなり症状が進行していることも珍しくありません。だからこそ、日頃から小さな変化を見逃さないことが大切です。
不正咬合の最もわかりやすいサインは、食欲の低下とよだれ(流涎)の二つです。伸びた歯が口の中を傷つけるため、食べたそうにしているのに実際には食べられない、あるいは牧草のような硬いものだけ避けるといった様子が見られるようになります。口を上手く閉じられなくなるとよだれが外に漏れ出し、口の周りや前足が濡れて汚れるのも典型的な兆候です。
そのほかに気づきやすいサイン
食欲の変化やよだれ以外にも、注意しておきたい行動やからだの変化があります。
たとえば、前足で頻繁に口の周りを擦るような仕草をしているときは、口の中に違和感や痛みを感じている可能性があります。また、歯ぎしりの音が増えたと感じた場合も要注意です。デグーは通常でも歯をこすり合わせる音を出しますが、頻度や音の質が変わったときは不正咬合を疑ってもよいでしょう。
そのほかにも、フンの量が明らかに減っている、体重が落ちてきた、毛並みのツヤが悪くなった、くしゃみや目やにが増えたといった変化が複合的に見られる場合は、歯のトラブルが進行している可能性を考えるべきです。とくにくしゃみや目やには、臼歯の歯根が鼻腔や眼窩を圧迫していることを示唆するサインであり、早急な受診が望まれます。
日常生活でできる歯のトラブル予防

牧草中心の食生活を徹底する
デグーの歯の健康を守るうえで、最も効果的な予防策は牧草をたっぷり食べてもらうことです。チモシーなどのイネ科牧草には豊富な繊維質が含まれており、これを臼歯ですり潰しながら食べることで歯がまんべんなく削れていきます。
牧草はデグーの主食として常にケージ内に切らさないようにし、いつでも好きなだけ食べられる環境を整えましょう。ペレットはあくまで牧草では補いきれない栄養素を補助するための副食であり、主食にはなり得ません。ペレットの与えすぎは咀嚼回数の低下を招き、歯のトラブルにつながるため注意が必要です。
牧草の種類については、1番刈りのチモシーが繊維質豊富で歯の摩耗にはもっとも適しているとされますが、大切なのは「硬さ」よりも「継続してたくさん食べてくれること」です。食いつきが悪いようであれば2番刈りのやわらかいチモシーを試してみるのも一つの方法です。複数の種類を用意して、その子の好みを把握してあげることが継続的な牧草摂取につながります。
おやつの与え方に注意する
デグーとのコミュニケーション手段としておやつは便利ですが、与えすぎには気をつけたいところです。とくにグミ状のやわらかいおやつやドライフルーツなどは歯に付着しやすく、虫歯の原因になり得ます。虫歯ができるとその部分で噛むことを避けるようになり、結果として咀嚼のバランスが崩れて不正咬合を誘発することがあります。
おやつを選ぶ際は成分表示を確認しつつも、おやつはほどほどにして牧草中心の食生活を保つことが予防につながります。
ケージ齧りへの対策
ケージの金網をガリガリと齧るデグーは珍しくありませんが、これは歯にとって大きなリスクです。硬い金属を齧り続けると歯が歪んだり、歯根にダメージが蓄積したりする恐れがあります。
ケージ齧りの原因の多くは、退屈やストレスによるものです。ケージの中で十分に遊べる環境が整っていなかったり、部屋んぽ(ケージ外での運動時間)が不足していたりすると、エネルギーの発散先としてケージの金網に向かってしまいます。
対策としては、かじり木や殻付きクルミ、まつぼっくりなどのおもちゃを用意してあげること、ケージから出して遊ぶ時間を設けること、そして金網の内側にメッシュや木製のカバーを取り付けて物理的に齧れないようにすることが有効です。
一つ気をつけたいのが、デグーがケージを齧ったときに「やめなさい」と声をかけたり、おやつで気をそらしたりする行為です。これをすると「齧るといいことがある」と学習してしまう逆効果のパターンに陥ることがあります。齧り行動への対処は、原因そのものの解消に力を入れるのがベターです。
定期的な健康診断のすすめ
目に見える症状がなくても、半年に1回程度は動物病院で口腔内のチェックを受けることをおすすめします。臼歯の不正咬合は初期段階では外見からはわかりにくく、レントゲンを撮ってはじめて歯根が伸びていることが発覚するケースも少なくありません。
自宅でできるチェックとしては、下顎を軽く触ってでこぼこがないか確認する方法があります。臼歯の歯根が伸びている場合、下顎の骨に触れるとこぶのような膨らみが感じられることがあるためです。ただし、あくまで簡易的なチェックですので、正確な診断は動物病院に委ねましょう。
また、日常的に体重を計測する習慣をつけておくと、食欲低下による体重減少にいち早く気づくことができます。週に1回程度の計測で構いませんので、記録をつけておくと変化を数字で把握できて心強いです。
まとめ
デグーの歯は切歯も臼歯もすべて一生伸び続ける常生歯であり、毎日の食事を通じて自然に削れることで適切な長さが保たれています。前歯がオレンジ色になるのは正常な成長の証であり、心配する必要はありません。
一方で、デグーがかかりやすい不正咬合は、牧草不足・ケージ齧り・おやつの偏り・遺伝など複数の要因から発生し、一度かかると再発しやすい厄介な病気です。食欲の低下やよだれ、口周りを気にする仕草、歯ぎしりの変化など、日頃の小さなサインを見逃さないことが早期発見のカギになります。
予防の基本は、牧草をたっぷり食べられる食生活の維持と、ケージ齧りをさせない環境づくりです。そして、症状がなくても定期的にエキゾチックアニマル対応の動物病院で口腔内のチェックを受けることが、歯のトラブルを未然に防ぐ最善策といえるでしょう。
デグーは体調不良を隠す傾向がある動物です。「いつもと何かが違うな」と感じたら、迷わず動物病院へ足を運んでください。日々の観察と適切な食事管理が、デグーの歯の健康、そして元気な毎日を守る土台になります。