うさぎと暮らしていて、「急にごはんを食べなくなった」「うんちが小さい、あるいは出ていない」——そんな場面に出くわしたことはないでしょうか。もしかすると、それはうっ滞(胃腸うっ滞)のサインかもしれません。
うっ滞はうさぎにとってもっとも身近な病気のひとつであり、同時にもっとも怖い病気のひとつでもあります。初期の段階では「なんとなく元気がないかな?」くらいの軽い変化しか見られないことも多いのですが、対応が遅れると数時間から半日ほどで状態が急変し、最悪の場合は命を落としてしまうこともあります。だからこそ、飼い主さんが早い段階で異変に気づき、すぐに動物病院へ連れていくことが何よりも大切です。
この記事では、うさぎのうっ滞について、「そもそもどんな病気なの?」という基本から、原因、見逃しやすい初期症状、動物病院での治療内容、自宅でできる応急処置、そして日々の予防策まで、なるべくわかりやすくお伝えしていきます。
うさぎのうっ滞(胃腸うっ滞)とはどんな病気?

消化管の動きが止まってしまう状態
うさぎは草食動物で、起きている間はほぼずっと何かを食べています。口から入った食べ物は、食道から胃、小腸、盲腸、大腸へと送られていくのですが、この一連の流れを生み出しているのが蠕動運動(ぜんどううんどう)と呼ばれる消化管の動きです。うさぎの消化管は、食事をしていないときでも休むことなくこの蠕動運動を続けています。
うっ滞とは、何らかの原因でこの蠕動運動が鈍くなったり、完全に止まってしまったりする状態のことです。消化管が動かなくなると、食べたものがお腹のなかに滞留してしまい、ガスがたまったり、腸内細菌のバランスが崩れたりします。その結果、お腹の張りや痛みが生じ、さらに食欲が落ち、ますます消化管が動かなくなる——という悪循環に陥ってしまうのです。
正式には「消化管うっ滞」や「ウサギ消化器症候群(RGIS)」と呼ばれることもあり、食欲不振で動物病院を受診するうさぎのなかでもっとも多い原因のひとつとされています。それほど診療現場で頻繁にみられる、うさぎにとって代表的な病態です。
「毛球症」との違いは?
うっ滞について調べていると、「毛球症(もうきゅうしょう)」という言葉をよく目にするかもしれません。以前は、うさぎが毛づくろいの際に飲み込んだ毛が胃のなかで毛玉(毛球)になり、それが消化管を詰まらせることでうっ滞が起こると考えられていました。
しかし近年の研究では、この因果関係が見直されてきています。現在の考え方では、先に消化管の動きが低下し(うっ滞が起こり)、その結果として飲み込んだ毛がうまく排出されずに胃のなかで毛球になる、という流れが有力です。つまり、毛球はうっ滞の「原因」ではなく「結果」であるケースが多いとされています。
ただし、毛球が大きく成長して消化管を物理的に塞いでしまう(閉塞を起こす)ケースも実際にはあり、その場合は外科手術が必要になることもあります。毛球症とうっ滞は完全に別物というわけではなく、密接に関連しあっている病態だと考えておくとよいでしょう。
うさぎがうっ滞を起こす主な原因

食物繊維の不足
うさぎのうっ滞の原因としてまず挙げられるのが、食事に含まれる繊維質の不足です。うさぎの消化管は、繊維質をたくさん摂ることによって動く仕組みになっています。自然界のうさぎは栄養価の低い草を大量に食べ続けることで胃腸を動かし、健康を保っています。
ところが、ペットとして暮らすうさぎの場合、ペレットやおやつが食事の中心になってしまい、チモシーなどの牧草を十分に食べていないケースが少なくありません。牧草の摂取量が減ると、消化管の蠕動運動が弱まり、うっ滞を引き起こしやすくなります。
また、繊維質が足りない食生活を続けていると、腸内細菌のバランスも崩れやすくなります。繊維質を発酵させてくれる善玉菌よりも、有害なガスを生み出す悪玉菌が優勢になり、ガスがお腹にたまりやすい状態になってしまうのです。
ストレスと環境の変化
うさぎはとても繊細な動物です。環境の変化やストレスが、消化管の動きに大きな影響を与えることがわかっています。
たとえば、引っ越しや模様替え、見知らぬ来客、大きな音、気温の急激な変化などは、うさぎにとって大きなストレス源になります。また、運動不足もうっ滞の原因のひとつです。ケージのなかだけで過ごす時間が長いと、体を動かす機会が減り、それにともなって消化管の動きも鈍くなりがちです。
さらに、換毛期や季節の変わり目にうっ滞が起きやすいと言われることがあります。換毛期にあたる春や秋は毛の飲み込みが増えやすく、気温の変動によるストレスも重なるためです。ただし、うっ滞は季節を問わずいつでも起こり得るものなので、「今は換毛期じゃないから大丈夫」と油断しないことが大切です。
不正咬合やほかの病気が隠れていることも
うっ滞の背景に、歯のトラブルやほかの疾患が隠れていることもあります。うさぎの歯は一生伸び続けますが、噛み合わせが悪くなる不正咬合(ふせいこうごう)が起こると、牧草をうまく食べられなくなり、食事量が減少します。食事が減れば当然、消化管の動きも落ちてしまいます。
そのほかにも、泌尿器疾患や肝臓・腎臓の病気、腫瘍など、体のどこかに不調があって食欲が落ちた結果としてうっ滞が起こるケースもあります。うっ滞を繰り返す場合は、単にお腹の問題だけでなく、根本的な原因を探るための精密検査が必要になることもあるという点は覚えておきたいところです。
水分不足と脱水
意外と見落とされがちなのが、水分摂取量の低下です。うさぎが十分な水を飲んでいないと、胃の内容物の流動性が下がり、消化管のなかで食べ物や毛が動きにくくなります。
冬場は気温が下がって飲水量が減りやすいですし、給水ボトルの調子が悪くて水が出にくくなっていた、というケースもあります。日頃から、うさぎがしっかり水を飲めているかどうかを確認してあげましょう。
うっ滞の症状|こんなサインが出たら要注意

初期症状は「なんとなくいつもと違う」程度のことも
うっ滞の厄介なところは、初期症状がとても地味だという点です。「いつもよりちょっと元気がないかな」「ごはんを残しているな」といった程度の変化しか見られないことも多く、初めて経験する飼い主さんは見逃してしまいがちです。
しかし、うさぎは痛みを我慢する動物です。外敵に弱った姿を見せないという本能から、体調が悪くても平気なふりをしてしまうのです。「ちょっと様子がおかしいかも」と感じた時点で、実はかなりつらい状態にある可能性があります。
食欲の変化に敏感になる
うっ滞にもっとも早く気づくきっかけになるのが、食欲の変化です。いつも大喜びで食べるペレットに口をつけない、大好きなおやつを差し出しても反応しない、牧草を食べる量が明らかに減った——こうしたサインが見られたら、うっ滞を疑ってみてください。
うさぎは本来、起きている間はほぼ常に何かを食べている動物です。食欲が落ちた状態が数時間続くようであれば、すでに体の中では大きな変化が起きている可能性があります。うっ滞は短時間で重症化することがあるため、「もう少し様子を見よう」と迷うよりも、早めに動物病院へ連絡するほうが安心です。
うんちの変化は見逃さない
食欲と並んでチェックしたいのが、うんちの状態です。うっ滞のうさぎには、次のようなうんちの変化が見られることがあります。
うんちの粒がいつもより小さくなった、うんちの量が明らかに減った、形がいびつで不揃いになった、毛でつながった数珠状のうんちが出た、あるいはうんちがまったく出なくなった——これらはいずれもお腹の動きが低下しているサインです。
また、ふだんは見かけない盲腸便(ぶどうの房のようにつながった、やわらかく光沢のある便)がケージに残っているのも注意信号です。通常、うさぎは盲腸便をお尻から直接食べるのですが、体調が悪いと食べ残すことがあります。
お腹の張り・痛みのサイン
うっ滞が進行すると、消化管にガスがたまり、お腹が張ってきます。うさぎがお腹の痛みを感じているときには、部屋の隅でじっとうずくまって動かない、体を伸ばしたり丸めたりを繰り返す、歯ぎしりをするといった行動が見られます。
とくに歯ぎしり(カチカチ、ギリギリという音)は痛みのサインとして知られており、この段階ではかなり状態が進んでいると考えられます。お腹を触ると硬くパンパンに張っている場合や、触られるのを嫌がって逃げる場合は、一刻も早い受診が必要です。
さらに重症化すると、胃が急速に拡張し、ショック状態に陥ってぐったり動かなくなることがあります。ここまで来ると命の危険が差し迫っており、緊急手術が必要になることもあります。
うっ滞が疑われるときの応急処置

まず動物病院への連絡を最優先に
うっ滞が疑われるとき、飼い主さんがまず行うべきなのは動物病院への連絡です。応急処置はあくまで「病院に行くまでのつなぎ」であり、応急処置だけでうっ滞が治ることは基本的にはありません。
ここで知っておいていただきたいのは、うっ滞と似た症状を示す病気に消化管閉塞(腸閉塞)があるということです。うっ滞と腸閉塞では治療方針がまったく異なり、閉塞がある場合に自己判断で食べ物を与えたりお腹をマッサージしたりすると、かえって状態を悪化させる危険があります。見た目だけでは飼い主さんが判断することは難しいため、以下の応急処置はあくまで獣医師に相談したうえで行うようにしてください。
夜間や休日で、かかりつけの動物病院が閉まっている場合は、夜間救急に対応している動物病院を探しましょう。うさぎの食欲不振は待てる症状ではなく、遅くても翌朝一番に受診する必要があることを忘れないでください。
お腹をやさしくマッサージする
動物病院の診察までの間にできることのひとつが、お腹のマッサージです。うさぎをひざの上に乗せ、お腹を手のひらで円を描くようにやさしくさすってあげます。消化管の動きを刺激するきっかけになることがあります。
ただし、お腹がパンパンに張っていたり、触ると明らかに嫌がったりする場合は、すぐに中止してください。胃拡張や腸閉塞の状態でお腹を圧迫すると、かえって危険なことがあります。マッサージは、お腹がそこまで張っておらず、うさぎも嫌がらない場合に限って行い、少しでもストレスを感じている様子があればその時点でやめることが鉄則です。
好きな食べ物や香りの強い牧草を試す
食欲が少しでも残っているようであれば、嗜好性の高い葉物野菜や、ふだん食べ慣れている牧草を少量差し出してみるのもひとつの方法です。何かひと口でも食べてくれれば、それが消化管を動かすきっかけになる可能性があります。ただし、まったく食べない状態で無理に口に入れることは避け、獣医師の判断を仰いでください。
また、いつもの牧草を少し温めて香りを立たせてから差し出すという方法もあります。温かい牧草のよい香りが食欲を刺激してくれることがあるのです。
室温を適切に保つ
うさぎは寒さにも暑さにも弱い動物です。体調が悪いときはとくに、室温を急変させず安定した状態に保ち、静かで落ち着ける環境を整えてあげましょう。体が冷えているようであれば、ペット用のヒーターやブランケットなどで補助的に保温してあげるのも効果的です。うさぎの快適な環境温は一般的に18℃前後が目安とされていますが、個体差もあるので、ふだんからその子が過ごしやすい温度帯を把握しておくと安心です。
うっ滞を予防するために飼い主ができること

牧草中心の食生活を徹底する
うっ滞の予防としてもっとも確実なのは、牧草をしっかり食べてもらうことです。チモシーなどのイネ科牧草を食べ放題のスタイルで常に用意し、うさぎが一日中好きなだけ食べられる環境をつくりましょう。
ペレットはあくまで栄養を補うための補助食であり、食事の主役は牧草です。ペレットやおやつの与えすぎは、牧草の摂取量を減らす原因になるため、量には注意が必要です。「牧草をあまり食べてくれない」というお悩みがある場合は、牧草の種類を変えてみたり、1番刈り・2番刈りなど刈り取り時期の違うものを試してみたりするのもよいでしょう。
ペレットを選ぶ際は、成分表示を確認して繊維質の含有量が多い製品を選ぶことも予防につながります。
こまめなブラッシングで毛の飲み込みを減らす
とくに換毛期は、こまめにブラッシングをしてあげることで、毛づくろいの際に飲み込む毛の量を減らすことができます。ライオンラビットなどの長毛種は毛が消化管のなかで絡まりやすいため、よりいっそう丁寧なケアが求められます。
換毛期は春と秋に訪れますが、室内飼いのうさぎは時期がずれることもあります。抜け毛が増えてきたなと感じたら、ブラッシングの頻度を上げてあげてください。
適度な運動の機会をつくる
毎日ケージから出してへやんぽ(部屋のなかでの散歩)をさせることで、体を動かし、消化管の動きを促すことができます。運動は消化管だけでなく、精神的な健康にも良い影響を与えます。
へやんぽの時間は、1日あたり30分〜1時間程度を目安に、うさぎの様子を見ながら調整しましょう。走り回ったり、ジャンプしたりと活発に動く姿が見られれば、お腹の調子も良好であるひとつの目安になります。
ストレスのない環境づくり
うさぎは想像以上に繊細な動物です。ストレスを感じると胃腸の動きが鈍くなり、うっ滞を引き起こしやすくなります。
急な温度変化、大きな音、見知らぬ人やほかの動物との接触などは、うさぎにとって大きなストレスになります。ケージの置き場所はなるべく静かで落ち着いた場所にし、直射日光やエアコンの風が直接あたらないように配慮してあげましょう。
ホルモンの影響によるストレスが気になる場合は、避妊手術や去勢手術を検討するのもひとつの方法です。手術についてはかかりつけの獣医師に相談してみてください。
水分をしっかり摂れるようにする
新鮮な水をいつでも飲める環境を整えることも、うっ滞予防のために欠かせません。給水ボトルは毎日水を替え、ノズルの詰まりがないか定期的に確認しましょう。
うさぎによっては、給水ボトルよりも器で水を飲むほうが好きな子もいます。飲水量が少ないと感じたら、器に変えてみるのもひとつの手です。生野菜を適量与えることで、食事からの水分摂取を補う方法もあります。
毎日のうんちチェックを習慣にする
うっ滞の予防というよりは「早期発見」のためのポイントですが、毎日うんちの量・大きさ・形を確認する習慣をつけておくと、異変にいち早く気づくことができます。
健康なうさぎのうんちは、コロコロとした丸い粒で、大きさや量がだいたい一定しています。「なんだか今日はうんちが少ないな」「粒が小さいな」と感じたら、それはお腹の不調のサインかもしれません。ごはんの食べ具合とあわせて観察し、おかしいと思ったら迷わず動物病院に連絡することを心がけましょう。
「いつもと違う」と感じたら、迷わず病院へ
うさぎのうっ滞は、飼いうさぎであればほぼすべての子が一生に一度は経験すると言われるほど身近な病気です。しかし身近でありながら、対応が遅れれば命を落とすこともある、けっして軽く見てはいけない病気でもあります。
予防のために飼い主さんができることをあらためて整理すると、牧草中心の食事を心がけること、こまめなブラッシング、適度な運動、ストレスの少ない環境、十分な水分摂取、そして毎日のうんちチェック——日々の暮らしのなかで意識できることばかりです。
そしてなにより、「いつもと違うな」「なんだか元気がないな」と感じたら、迷わず動物病院に連れて行くこと。うさぎのうっ滞は早期発見・早期治療がカギを握ります。「大げさかな」と思っても、行ってみて何もなければそれが一番よいのです。
うさぎは痛みやつらさを隠す動物だからこそ、そばにいる飼い主さんのちょっとした気づきが、大きな助けになります。この記事が、あなたとうさぎの穏やかな毎日を守る一助になれば幸いです。