フェレットを飼っていると、「野生のフェレットはどこにいるんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか。結論からお伝えすると、ペットのフェレットは野生種ではなく、人の手で家畜化された動物です。自然界に広く分布する「野生のフェレット」という種は存在しません。ただし、逃げ出した個体が野外で生き延びたり、地域によっては野生化して問題になっている例もあります。
この記事では、フェレットがなぜ野生種として存在しないのか、祖先とされるヨーロッパケナガイタチとはどんな動物なのか、そして2000年以上にわたる家畜化の歴史について詳しく解説していきます。フェレットの本当のルーツを知ることで、一緒に暮らすフェレットへの理解がより深まるはずです。
フェレットが野生に存在しない理由

ペットのフェレットは「家畜化された動物」である
フェレットは犬や猫と同じように、人間の手によって家畜化された動物です。学名は文献により表記が異なりますが、一般には「Mustela putorius furo」とされています。語源的には「putorius」は“臭い”を指すラテン語に由来するといわれています。フェレットはイタチ科イタチ属に分類される動物ですが、野生種ではなく家畜として生み出された種なのです。
野生のイタチ、たとえば日本に生息するニホンイタチやチョウセンイタチは自然界で獲物を狩り、巣穴を作って生活しています。一方でフェレットは、長い年月をかけて人間と暮らすことに適応してきました。そのため、人懐っこい性格や多様な毛色といった野生のイタチには見られない特徴を持つようになったのです。
もしも野外でフェレットに似た動物を見かけたとしたら、それは逃げ出したペットのフェレットか、野生のイタチである可能性が高いでしょう。フェレットは野生種として自然界に広く分布しているわけではありませんが、ニュージーランドなど一部の地域では野生化した個体が定着し、問題になっているケースもあります。
野生で生きていくのが難しい理由
ペットのフェレットが野生で生きていくのは、実はとても困難です。その理由はいくつかあります。
まず、目立つ毛色の問題があります。野生のイタチは茶褐色や山吹色といった保護色を持っていますが、フェレットは白やクリーム色、パンダ柄など多彩な毛色があります。こうした目立つ色は野外では捕食者に見つかりやすく、生存に不利に働きます。
また、日本で販売されているフェレットのほとんどは避妊・去勢手術を受けています。繁殖能力がないため、仮に野外で生き延びたとしても子孫を残して集団を形成することができません。手術を受けていないメスのフェレットは、発情期に交配できないとエストラスという病気になって命を落としてしまうこともあります。
さらに、フェレットは人間が用意するフードや適切な温度管理に慣れているため、季節の変化や厳しい自然環境への耐性が低いという問題もあります。野生のイタチのように獲物を狩る本能は残っているものの、実際に自力で食料を確保し続けるのは容易ではありません。
フェレットの祖先とされるヨーロッパケナガイタチ
ヨーロッパケナガイタチとはどんな動物か
フェレットの祖先として有力視されているのが、ヨーロッパケナガイタチ(学名:Mustela putorius)という野生のイタチです。英名では「ポールキャット」とも呼ばれ、ヨーロッパからウラル山脈にかけての広い地域に生息しています。
ヨーロッパケナガイタチの体長は35~51cm程度で、体重はオスで1.4~1.7kg、メスで約0.7kgほどです。毛色は淡い褐色から黒色で、ペットのフェレットでいう「セーブル」というカラーによく似ています。夜行性で穴を好む習性があり、水辺や森林の端、草原などで単独生活を送っています。
食性は完全な肉食で、ネズミなどのげっ歯類やウサギ、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫などあらゆる小動物を捕食します。イタチの仲間は消化管が短いため、食べた物をあっという間に消化してしまう特徴があります。そのため、獲物を巣穴に持ち帰って数回に分けて食べるという習性を持っています。ペットのフェレットも少量をこまめに食べる傾向があり、1日に数回に分けて食事をする運用が一般的に紹介されています。
祖先についてはまだ謎が多い
実は、フェレットの正確な祖先についてはまだはっきりと解明されていません。ヨーロッパケナガイタチの他に、ステップケナガイタチ(学名:Mustela eversmanii)も候補として挙げられています。ステップケナガイタチはヨーロッパから中国にかけての草原地帯に生息するイタチで、ヨーロッパケナガイタチとよく似た外見を持っています。
家畜化の時期についてはさまざまな説がありますが、少なくとも約2000年以上前から人と関わってきたと考えられています。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは著書「動物誌」の中で「イタチ」と「野生イタチ」を分けて記述しており、「イタチ」は現在の飼育フェレット、「野生イタチ」は野生のケナガイタチを指していたと考えられています。
ただし、フェレットがどの地域でどのように家畜化されたのかという詳細は今も議論が続いています。古代エジプトの壁画にフェレットらしき動物が描かれているという説もありますが、フェレットのミイラが発見されていないことや、もともとアフリカにはケナガイタチが生息していないことから、エジプト起源説には疑問も残されています。
フェレットに近い野生動物たち
日本に生息するイタチとの違い
日本で見かけることのあるイタチには、ニホンイタチとチョウセンイタチ(シベリアイタチ)の2種類がいます。どちらもフェレットと同じイタチ科イタチ属に分類される動物ですが、野生動物であるため性格や行動パターンは大きく異なります。
野生のイタチは気性が荒く、人が近づくと攻撃してくることがあります。自分より大きな動物を襲ってしまうほどの攻撃性を持ち、縄張り意識も強いのが特徴です。一方でフェレットは穏やかな性格で、人によく懐いて甘えてきます。これは長年の家畜化によって、人間と共に暮らすのに適した気質が選ばれてきた結果といえるでしょう。
外見上の違いとしては、野生のイタチは山吹色~茶褐色の毛色で顔の中央が暗めになっているのに対し、フェレットは毛色や柄が個体によってさまざまです。また、フェレットはイタチよりも体や足跡がやや大きめで、野外で足跡が発見されることはほぼありません。
在来種であるニホンイタチは、外来種のチョウセンイタチに住処を追われて個体数が減少し、現在は準絶滅危惧種に指定されています。このように、野生のイタチたちも決して安泰な状況ではないのです。
絶滅の危機を乗り越えたクロアシイタチ
フェレットに近い野生動物として、クロアシイタチ(学名:Mustela nigripes)という北アメリカに生息するイタチがいます。目の周りが黒いマスクのような模様を持ち、前脚と後脚、しっぽの先も黒く染まっているのが特徴です。ヨーロッパケナガイタチやステップケナガイタチとよく似た外見をしており、フェレットとも近縁関係にあります。
クロアシイタチの食事の約90%はプレーリードッグが占めており、生活場所もプレーリードッグの巣穴に依存しています。20世紀に入ると、農場や牧場の拡大に伴ってプレーリードッグが大量に駆除されたことで、クロアシイタチの数も激減しました。1970年代後半には絶滅したと考えられていましたが、1981年にワイオミング州で残存する野生個体群が発見されたのです。
その後、1985年から1987年にかけて18頭が保全繁殖のために捕獲され、飼育下での繁殖プログラムが始まりました。1991年以降は飼育下繁殖個体の野生への再導入が進められ、現在は絶滅危惧種として保護されながら、少しずつ個体数を回復させています。
近年は遺伝的多様性を補う取り組みとして、クローン技術の研究も行われています。2020年には世界初となるクロアシイタチのクローン個体「エリザベス・アン」が誕生し、絶滅危惧種保護の新たな可能性を示しました。
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フェレットと人間の2000年以上の歴史

狩猟のパートナーとして重宝された時代
フェレットが人間に飼育されるようになったのは、少なくとも約2000年以上前にさかのぼるとされています。起源や詳細については今も議論がありますが、当初の目的は狩猟の手伝いや害獣駆除だったと考えられています。フェレットの細長い体と穴に入り込む習性を活かして、ウサギやネズミを巣穴から追い出す「フェレッティング」という狩猟方法が行われていたのです。
かつて狩りに使われるフェレットは、獲物と見分けやすいようにアルビノ(白色)の個体が多く使われていました。これが「フェレット=白いイタチ」というイメージにつながり、日本でもフェレットの別名「フィッチ」が「白イタチ」と訳されるようになったのです。実際には野生のヨーロッパケナガイタチも白色ではありませんし、現在のフェレットには多様な毛色が存在します。
意外な場面で活躍したフェレット
フェレットは狩猟以外にも、意外な場面で人間の役に立ってきました。穴の中に潜り込む習性を活かして、狭い管の掃除や電線を引く工事などにも使われていたのです。フェレットの体に電線やケーブルをつなぎ、人が通れないような細いチューブの中を行き来させることで、電気工事を行っていた時代もありました。
アメリカでは17世紀にフェレットが初めて持ち込まれ、1860年から第二次世界大戦の開始まで、西部の穀物倉庫をネズミから守るために広く使用されていました。害獣駆除のプロフェッショナルとして、フェレットは長い間人間社会で活躍してきたのです。
ニュージーランドでは19世紀後半、ウサギ対策としてフェレットの導入・放獣が進められました。しかし、この試みは後に大きな問題を引き起こすことになります。
ペットとしての人気が高まった現代
1970年代になると、アメリカでフェレットの繁殖方法が確立され、ペットとしての人気が急速に高まりました。1980年代から1990年代にかけてブームが爆発し、1996年の調査ではアメリカで80万匹以上のフェレットが家庭で飼育されていたとされています。
日本でフェレットが本格的にペットとして認知され始めたのは1993年頃のことです。アメリカ人のマイケル・E・コールマン氏が臭腺除去と避妊手術を施したマーシャルフェレットを輸入し、日本への紹介を始めました。獣医師の野村潤一郎氏もテレビ番組などでフェレットを紹介し、1995年頃から一般的にも広く知られるようになりました。
現在では、アメリカ、カナダ、ニュージーランドなどに大規模なフェレットファーム(繁殖場)が存在し、それぞれのファームで繁殖されたフェレットには「マーシャル」「パスバレー」「カナディアン」などの名称がつけられて販売されています。明確な品種の差があるわけではありませんが、ファームによって体格や性格、毛色の傾向に一定の違いがあり、それぞれにファンがついています。
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野生化したフェレットが引き起こす問題

ニュージーランドでの外来種問題
先ほど触れたように、ニュージーランドでは19世紀後半にウサギ対策としてフェレットが野に放たれました。その結果、フェレットが野生化して定着し、深刻な外来種問題を引き起こしています。
ニュージーランドはもともと哺乳類がほとんど存在しない島国で、多くの鳥類が地上で生活していました。飛べない鳥も多く、天敵となる捕食者への対応能力が低いのです。そこに野生化したフェレットが入り込んだことで、キウイなどの固有種が捕食されるようになり、生態系に大きな影響を与えています。
イギリスなど一部の地域では、野生のヨーロッパケナガイタチとフェレットの交雑個体も確認されています。ただし、これらは特定の地域における事情であり、「フェレットは世界中の野生に普通にいる」という一般論にはなりません。
日本での野良フェレットと法規制
日本でも、飼い主から逃げ出したり捨てられたりした「野良フェレット」の目撃情報がときどきあります。野良猫のいる場所でキャットフードを食べて生き延びている個体や、ゴミ捨て場の周辺に現れる個体が報告されています。
ただし、先述のとおりペットのフェレットは避妊・去勢手術を受けていることがほとんどで、繁殖して野生集団を形成することは困難です。また、フェレットは人目につきにくい場所を好むため、発見されても「何の動物かわからない」と見過ごされてしまうことも多いようです。
北海道ではフェレットが「特定移入動物」に指定されています。これは人に危害を加えるという意味ではなく、野生化した場合に生態系を乱す恐れがあるため、飼い主が無闇に捨てることがないよう管理する目的で定められたものです。フェレットが野良になった場合、野山のウサギやリスなどの小動物、鳥などを襲い、希少な固有動物が危険にさらされる可能性があると考えられています。
フェレットを飼う以上は、逃がさない・放さないという責任を持つことが大切です。それは法律や条例上の問題だけでなく、フェレット自身の命を守ることにもつながります。
まとめ
フェレットは野生種ではなく、人間によって家畜化された動物です。その祖先はヨーロッパケナガイタチやステップケナガイタチと考えられていますが、詳しい起源はまだ完全には解明されていません。
少なくとも2000年以上にわたって人間と共に暮らしてきたフェレットは、狩猟のパートナーから愛玩動物へとその役割を変えながら、世界中で大切にされる存在になりました。一方で、ニュージーランドのように野生化して生態系に影響を与えているケースもあり、フェレットを飼う上での責任についても考える必要があります。
野生種としてのフェレットは存在しませんが、近縁種であるヨーロッパケナガイタチや、保護活動が続くクロアシイタチなど、フェレットに近い野生動物たちは今も各地で暮らしています。フェレットのルーツを知ることで、一緒に暮らすパートナーへの理解と愛情がより深まることでしょう。