犬でも猫でもない、「小さな家族」と暮らす日々。近年、ハリネズミやフクロモモンガ、爬虫類などのエキゾチックアニマルと暮らす人も少なくありません。しかし、彼らを診療できる動物病院は限られており、いざという時に頼れる場所を見つけられないという課題があります。
小動物メディアMinimaは、この課題に向き合うため、エキゾチックアニマルに特化した動物病院の情報共有サービス「ミニケア」を運営しています。
その取り組みの一環として、特別連載「エキゾのはなし。」を展開しています。飼い主、事業者、そして獣医師の方々に登場いただき、エキゾチックアニマルとの暮らしや、ケアの現状と課題についてさまざまな視点から語っていただいています。
第14回のゲストは、岡山理科大学獣医学部で獣医学を学び、インコのためのオリジナルフード開発に取り組む「野呂綾香(@Ayaka_noro)」さん。2015年から小鳥との暮らしを始め、これまでにセキセイインコ、オカメインコ、文鳥、ウロコインコを飼育してきました。愛鳥「ぐれー」との闘病経験から食餌の大切さを実感し、シード・ペレット・乾燥野菜を組み合わせた食餌の開発に挑んでいます。獣医学を学んだ立場から見える鳥の医療と食餌の現状、そして開発への想いを伺いました。
プロジェクトのピッチに登壇する野呂さん(画像:CAMPFIREプロジェクトページより)愛鳥「ぐれー」が倒れた日
——インコを飼い始めたきっかけを教えていただけますか?
小学生の頃からずっと鳥と暮らしたいと思っていました。学校にセキセイインコがいたので家でも飼いたいって言っていたんですけど、「鳥インフルエンザがあるからダメ」と反対され続けてきました。
ヒナの頃のぐれー(写真提供:野呂綾香さん)それでも粘りに粘って、ようやく20歳の誕生日のときに買ってもらえたんです。それからこれまでに、セキセイインコ、オカメインコ、文鳥、ウロコインコと、いろんな種類の小鳥たちと暮らしてきました。今は5羽が一緒にいます。
野呂さんがこれまで一緒に暮らしてきた小鳥たち(画像:CAMPFIREプロジェクトページより)——飼育の中で、印象に残っているエピソードはありますか?
セキセイインコの「ぐれー」が、7歳のときに肝性脳症になってしまったんです。肝機能がほとんどなくなってしまって、本来分解されるはずのアンモニアが代謝できずに体内に溜まってしまうという状態になりました。教科書的には、数日で亡くなってしまうような病気です。
幸いにも、愛媛県内の鳥類臨床研究会の認定会員の先生から早期に診断を受け、適切な治療薬をいただけました。しかし、人や犬、猫では当然のように行われる栄養指導がないことに気づきました。ぐれーの場合、明日生きているかわからないという状況だったことが栄養素の見直しに繋がらなかった大きな原因の1つかもしれません。
ですが、診断と治療に加えて「食餌」というのも大事だろうと思いました。犬や猫だと、肝臓療法食とか腎臓ケアとか、いろんな療法食がありますよね。でも鳥の場合、飼い主様が手に取りやすい療法食の選択肢が、ほとんどないと感じました。私が知る限りでは海外に鳥用の療法食があるのですが、それは獣医師を通さないと入手できないものでした。
——それで、ご自身で食餌の調整を試みたんですね。
ちょうどそのとき、大学で栄養学を受講していました。また、母が人間の看護師なので、療法食という言葉は家の中ではよく出てきます。糖尿病なら糖分を控える、腎臓が悪ければカリウムを制限する、というのが日常の会話の中にありました。「療法食って犬や猫にもあるけど、鳥にはないんだ」と、ぐれーが倒れたときに初めて気づきました。
それで、ぐれーに食べさせていたシードのバランスを変えてみました。肝臓への負担を少しでも減らせないかと思ってタンパク質の多い種を減らしてみたら、そこから1年間生きてくれました。やっぱり、診察と治療、それを支える食餌——三位一体が大事なんじゃないかなって、強く感じるようになりました。
粟穂を食べるぐれー(写真提供:野呂綾香さん)——食餌に対する見方が変わった、ということでしょうか。
そうですね。種って、なんていうか、生命の源じゃないですか。植物が生まれる元なので、「パーフェクトだろう」って完全にそう思い込んでいました。ぐれーが倒れるまで、私自身も全然何も疑わずにシードを食べさせていて。「これでいいんでしょう」みたいな感じでした。シードは脂が多いって言われても、あんまり深く考えたことがありませんでした。
学生時代の夏休みに小鳥専門病院へ数日間お伺いしましたが、そこで「野菜を食べさせていない」と栄養指導を受けている飼い主様がすごく多かったんですよね。気になってアンケートを取ってみたら、毎日野菜やフルーツをあげている方は4人に1人ぐらいでした。「先生は毎日あげるように言うけど、実際は気が向いたら2、3日に1回」という方が多いという結果になりました。
理由を聞いてみると、「傷むのが早い」「ちょっとしか食べないから毎日あげるのは負担がある」と。私自身、5羽飼っていますけど、わざわざ青菜を買ってきても伸びるのが早いし、リンゴやマスカットも高いし。「毎日」って言われるとちょっと……、というのは実体験としてわかります。
シード・ペレット・乾燥野菜の「ホールフード」へ
——その課題感から、ご自身でフードを開発しようと。
シードとペレットに、乾燥させた野菜を加えて、鳥の「食べる楽しみ」と「健康」を両立した食餌を作りたいなと思うようになりました。最近、海外で「ホールフード」という考え方が主流になりつつあります。いろんな食材が混ざっていて、その中から鳥が「これは食べる」「これはいらない」と自分で選べるような食餌です。
野呂さんが開発を目指す食餌のイメージ(画像:CAMPFIREプロジェクトページより)野生の動物たちって、1日の大半を「食べる」ことに費やしていますよね。でも飼育されている動物たちは、上げ膳据え膳ですぐにご飯にありつけてしまう。それが退屈で、精神的な疾患にもつながると言われています。だから、シードだけでは足りない栄養素を補うためのペレットを入れて、食べるのを邪魔する役として乾燥野菜を入れる。混ざっていれば、選り分けて食べる時間そのものが鳥にとって意味のあるものになるんじゃないかなと。
ペレットの中には、全部同じ見た目で同じ味のものもありますよね。人間でいえば毎日カロリーメイトを食べているような状態です。現状はシードとペレットが半々ぐらいが良いんじゃないかなと、個人的には思っています。
——市販のフードでは、シードとペレットを混ぜたものはあまり見かけないですね。
主力商品という扱いではなさそうな感じなんですよね。だから、独自に自宅でブレンドされている飼い主様が半分くらいいらっしゃるという印象です。野菜まで入っているものとなると、あまり見受けられないように感じます。
「ペレットを食べていれば栄養は足りているからいい」という考え方もあるかもしれませんが、栄養面だけじゃなくて、食べる楽しみも大事にしたいです。インコは感情のある動物ですし、人間以上に食餌の楽しみが大きいと言われていますから。
——現在の進捗はいかがですか?
いろんな色のペレットを焼いてご協力くださった飼い主様の小鳥たちに食べてもらい、製品に入れるペレットの色を決定しました。現在はその結果の報告とクラウドファンディングのリターン発送、実際の製造に向けて東奔西走といったところです。
セキセイインコとオカメインコは食性が似ているので、まずはこの2種に向けて、成鳥期用・老鳥期用・疾患全般用の食餌を準備しています。その先は文鳥やコザクラインコと、少しずつ対象の鳥種を広げていきたいと思っています。
鳥の医療現場の「悲しいミスマッチ」
——鳥を診療できる動物病院は、まだ多くない現状もあると伺います。
12年前、鳥を飼い始めた頃の話なんですが、嘴がカサカサになって嘴の横に揚げ玉のような小さな塊がついている子がいたんですね。最初はなかったんですけど、成長するにつれて目立ってきて。汚れではなさそうだし、こすっても取れない。それで病院に連れて行ったんですけど、「汚れですね」と言われて帰されていました。
結局その子は原因不明のまま若くして亡くなってしまいました。後から考えると、疥癬——ヒゼンダニという皮膚に寄生するダニによる疾患だったのではないかと思いました。ヒゼンダニは皮膚にトンネルを掘ってその中に住むので、セロハンテープで取って調べる検査では見つかりません。これは、NPO法人「TSUBASA」さん主催のバードライフアドバイザーのセミナーでも扱われている内容です。ただ、このときは「汚れ」と判断されてしまった。
でも今振り返ると、地域にそこしか病院がなかったんですよね。だから、いろんな動物が来るんですよ。先生には応召義務(獣医師として相談を受けた際、正当な事由がなければ拒んではならないとする義務)があります。「専門外であれば診療を断っても義務に反しない」といわれても、地域唯一の病院となると診ないという判断はしづらかったと思います。そんな中で、先生は責任を持って目の前の動物たちを診てくださっていました。だから、悲しいミスマッチだったんだなって思っています。
——そこをどう変えていけたら、と思われますか?
「エキゾチックアニマルの診療が世の中で求められてるんだ」ということが広まってくれたらと思います。卒業してから新たに勉強していくのは大変ですが、求めている飼い主様が多いということがわかればモチベーションアップに繋がると思います。また、学生のうちから「エキゾチックいいかも!」と考える人が増えたら嬉しいです。
特に、エキゾチックアニマルの人気の高さに対して獣医療が追いついていないのではないかと心配しています。鳥をはじめとするエキゾチックアニマルは犬や猫に比べるとお手頃な価格の動物種が多く、お迎えするまでのハードルが低いように感じます。しかし、専門医や診療できる獣医師が足りていない。そうなると、病気を治せない、病気になったら見守るしかない、また新しく買えばいいという状況を許すことになります。
獣医学教育にはモデルコアカリキュラムという指針がありますが、そこに小鳥や爬虫類は入っていません。なので、興味を持って自主的に勉強された先生方が診療されている、という状況です。私自身も、まだまだ勉強中といったところですね。
ミニケアへの期待
——最後に、ミニケアへの期待を教えてください。
飼い主として病院を探すとき、「この病院、鳥も診療可能って書いてあるけど、実際どうなんだろう」と不安に思うことが多かったんですよね。いざ電話してみると「実はもう診ていません」なんてことも……。まずはここから変わっていってほしいです。
地方ほど、頼れる病院を探すのが難しい現状があると思います。私自身、運よく鳥を専門的に診られる先生に出会えたから、ぐれーが救われた経験があります。そういう「出会い」が偶然に起こるものではなくなり、多くの飼い主様に広がっていくといいなと思っています。
獣医師も、飼い主様も、お互いに支え合える関係になっていくのが理想ですね。フード開発を少しずつ進めながら、これからも長く取り組んでいきたいと思っています。
野呂綾香さんが手がけるオリジナルフードの開発状況は、X(@Ayaka_noro)にて発信中。