犬でも猫でもない、「小さな家族」と暮らす日々。近年、ハリネズミやフクロモモンガ、爬虫類などのエキゾチックアニマルを飼育する人が増えています。しかし、彼らを診療できる動物病院は限られており、いざという時に頼れる場所を見つけられないという課題があります。
小動物メディアMinimaは、この課題に向き合うため、エキゾチックアニマルに特化した動物病院の情報共有サービス「ミニケア」を立ち上げます。
サービス開始に先立ち、特別連載「エキゾのはなし。」をスタート。飼い主、事業者、そして獣医師の方々に登場いただき、エキゾチックアニマルとの暮らしや、ケアの現状と課題について様々な視点から語っていただきます。
第4回のゲストは、8年前からファンシーラットと暮らし、飼い主のための症例データベース「ラットシェア」を立ち上げた「村上ラット(@murakamine_zumi)」さん。情報がほとんどなかった時代から飼育を続けてきた経験と、なぜデータベースを作ろうと思ったのか、お話を伺いました。
ファンシーラットとの出会い
——ファンシーラットを飼い始めたきっかけを教えていただけますか?
最初に飼ったのは10年ぐらい前なんです。それまではずっとハムスターとうさぎを飼っていて、ハムスターが亡くなった時に、たまたまジモティーを見ていたら、ファンシーラットを募集している方がいて。
今思えば、もっとしっかり調べるべきだったんですけど、当時は「ハムスターと同じ齧歯類だし、飼い方も近いのかな」ぐらいの感覚で。その時は、ファンシーラットの情報もほとんどなかったので。それで、飼い方について調べられる範囲で調べて、お迎えしたんです。

——8年前はファンシーラットの情報が少なかったんですね。
専門書もないし、ネット上にも情報がなくて。振り返ってみれば、もうちょっとちゃんと準備してあげればよかったなって思うんですけど。里親でくださった方も海外の方で、「生まれたからお譲りします」という感じだったんです。
——その後もずっとファンシーラットを飼い続けているんですか?
その後また違う子を迎えました。それからはずっとファンシーラットを飼い続けている感じです。しばらく飼っていない間もあったんですが、再び飼い始めた5年ぐらい前でも、まだ情報は少ないなっていう印象でした。

——以前『Minimaマガジン』第3号では、「大豆」ちゃんと「グリージョ」ちゃんの2匹に特集に出ていただきました。とっても可愛かったです!
ありがとうございます。2匹とも1歳半にならないぐらいで、2ヶ月違いなんです。もうだいぶ大きくなってきましたね。
ファンシーラットの飼育について
——ファンシーラットの寿命はどれくらいなんでしょうか?
平均して大体2〜3歳ですね。長寿の子だと3歳くらい。寿命的にはハムスターとほぼほぼ一緒です。「もう少し長く一緒にいられるのかな?」と思われる方もいると思うんですけど、寿命のサイクルは意外とハムスターとあまり変わらないですね。
——最近、SNSなどでファンシーラットを飼っている方をよく見かけるようになった印象があります。
私がXのアカウントを始めたのが今年の5月なんですが、特にXではよく見かけますよね。今まではInstagramに記録として載せていただけで、他の方との交流もあまりなくて。ただ、実際に実生活でファンシーラットの飼育者に会ったことはなく、「どこにいるんだろう、みんな」みたいな(笑)。

——ペットショップでもあまり見かけないですよね。
ほとんど見かけないですね。近所にエキゾチックアニマル専門の動物屋さんがあるんですけど、それでも半年に1回入るか入らないかみたいな感じです。大体ハリネズミとか、ジャービル、ハムスターはいるんですけど、ファンシーラットは本当に見かけないです。
——飼育で特に気をつけることや、ファンシーラット特有の悩みなどはありますか?
よく言われるのが、やっぱり匂いですね。ハムスターから飼育を始める方が多いので、その違いに戸惑う方もいらっしゃるようです。1匹で飼えばそれほど気にならないんですが、多頭飼いだとその分匂いが出るので、それが飼育のハードルになることもあるようです。
あと、長い尻尾が特徴的なので、そこに慣れない方もいらっしゃいますね。でも、飼育難易度としてはそんなに高くはないと思います。

症例データベース「ラットシェア」誕生の背景
——村上ラットさんは「ラットシェア」という症例データベースを作られています。これを作ろうと思ったきっかけを教えていただけますか?
やっぱり、情報がなかったんです。ネットで調べたりすると論文は出てくるのですが、ペットとして飼っているという方の母数があまりにも少ないので。「こういう病気で病院に行って、どういう治療をした」とか、「最終的にどうなった」みたいな実際の飼い主さんの体験談が全然ないなと思ったのがきっかけです。
病院の先生も、扱ったことがある・ないはもちろん、扱ったことがあっても症例が少ない事情もあるんだろうなと思っていて。
——それで飼い主さんの実際の経験を共有する場を作りたかったんですね。
正直、専門の方から見たら不十分な部分もあると思うんです。あくまで飼い主目線の記録なので。ただ、実際に飼っている方が「こういう診断をされて、こういう治療をした」っていう事実自体は、何かしら他の人から見たら「うちの子、もしかしたらこういうことなのかも」っていうヒントに繋がるんじゃないかなと。自分もその時、そういう情報があったら助かっただろうなと思ったので。

——ご自身の経験が元になっているんですね。
はい。以前飼っていた子の口の部分が腫れてしまって、「何か細菌感染の可能性があるので抗生物質を試しましょう」という話になったんです。それで、いろんな種類の抗生物質を試したんですけど、なかなか改善しなくて。
「場所が場所だから神経もあるし、切開は難しい」と言われて、投薬で様子を見るしかないという状況でした。結局、最終的にどの治療が効果があったのかっていうのも、はっきりとはわからなかったんですけど。
同じような経験をされる方が今後いるとしたら、「色々試してみた結果」とか「こういうアプローチもあった」っていう情報として見ていただけるのかなと思って。本当にそういうのって、経験してみないとわからない部分なので。

——そうした経験を共有したいという思いだったんですね。
そうですね。過去の自分が困ったっていう経験があったので、同じように悩んでいる飼い主さんに何かしら参考になればという思いでした。
動物病院に通うことは「保険」を作るようなもの
——ファンシーラットを診てくれる動物病院探しは、どのようにされたんですか?
埼玉県では川口市にエキゾチックアニマル専門の動物病院があるんです。そこから独立された方が、川口市を中心に埼玉の中央部にいらっしゃって。
たまたまチンチラを飼っている知り合いの方が、「前に行ってた川口の病院から、こっちに新しく開業した先生の病院があるんですよ」みたいな感じで教えてくれて。すごく自宅から近いところだったので、そこにたどり着けたんです。
——知人の紹介で見つけられたんですね。
はい。元々その先生がエキゾチックアニマルを診てくれるという情報があったから、新しいクリニックでも安心して行けたんですけど。そういう情報がないと、新しく開院した病院に行くのは勇気がいりますよね。

——現在は定期的に通院されているんですか?
はい。健康診断として病院に何回か連れて行くっていうのも大切だと思っていて。やっぱり病院に慣れてもらうっていうのもそうですし、病院との繋がりみたいな「保険」を作るっていうのが重要じゃないかなと思うんです。
普段の様子を先生に見ていただいておくと、何かあった時に変化に気づいてもらいやすいですよね。毎日ペットを見ている私たちが「変だな」って思っても、初めて診る先生にはその子の「普通」がわからないこともあると思うので。
——「保険を作る」という考え方、とても大切ですね。
健康診断で連れて行くことが、先生方にとってご負担になっていないかなと心配することもあるんですけど(笑)。でも、動物のことを思うと、年に1回か2回ぐらいは健康チェックをしてもらう方が安心かなと思っています。
ラットシェアの反響と課題

——ラットシェアを立ち上げてみて、反響はいかがでしたか?
「役立ちました」というような具体的なお声はまだいただいていないんですけど、「今まで記録をつけていたのでデータ持っています」って言ってくださる方はいらっしゃいます。協力してくださる方がいるというのはありがたいですね。いつかそれが誰かの役に立つ時が来るはず、という思いで皆さん見てくださっているのかなと思います。
——データベースへの入力について、何か課題はありますか?
やはり、闘病中はナーバスになっている時期なので。「病院に行ったから入力しよう」と、そんなにすぐには気持ちを切り替えられないですよね。記憶が鮮明なうちに記録していただけるのが理想ではあるんですが、そこは難しい部分だなと思っています。
——あくまでも善意で成り立っているからこその難しさですね。
そうなんです。協力してくださる方のご厚意があってこそなので。もちろん情報を共有していただけたら嬉しいですが、無理のない範囲でという形が一番だと思っています。
私自身は情報を調べるのが好きなタイプなので、餌のこととか、病気について論文を調べてどういう症例があったとか、そういうのを調べるのが苦にならないんです。だから、記録を残すことにも抵抗がないんですけど。
でも、人によっては辛かった経験を振り返るのが難しい方もいらっしゃると思うので。そういう方々にも配慮しながら、無理なく続けていけたらいいなと思っています。

ミニケアへの期待
——最後に、ミニケアへの期待があれば教えてください。
やっぱり地方にお住まいの方ほど、病院探しで困っている方が多いと思うので、そういう方にとってすごく有用なサービスになると思います。都心部だと情報も比較的見つけやすいですが、地方に情報が広がることで、本当に助かる飼い主さんが増えるんじゃないかなと思います。
——情報が集まることで、飼い主さんと動物病院の関係も変わっていきそうですね。
そうですね。動物病院の先生と飼い主が繋がれる場ができるっていうことも大事だと思っています。普段、私たち飼い主は病院以外でそういう機会がないので。そういう橋渡しをしていただけるのは、すごくありがたいですね。
獣医学校では、エキゾチックアニマルは必修科目ではないそうです。だから、興味を持って専門的に勉強された先生方が診療されているという状況で。加えて、診療を続けていくには経営面も大切だと思います。飼い主も動物病院の先生も、お互いに支え合える関係が理想的ですね。
情報が集まって、飼い主と病院が繋がって、エキゾチックアニマルの診療がもっと広がっていけば、みんなにとってより良い環境になっていくんじゃないかなと期待しています。
Minimaでは「ミニケア」の本格始動に向けてクラウドファンディングを11月12日(水)16:00より実施します。
小さな命を守るために、エキゾチックアニマルの診療環境を一緒に変えていきませんか。あなたの応援が、誰かの大切な家族を救うことにつながります。
クラウドファンディングURL:https://readyfor.jp/projects/minicare
ミニケアX:https://x.com/minicare_app