犬でも猫でもない、「小さな家族」と暮らす日々。近年、ハリネズミやフクロモモンガ、爬虫類などのエキゾチックアニマルを飼育する人が増えています。しかし、彼らを診療できる動物病院は限られており、いざという時に頼れる場所を見つけられないという課題があります。
小動物メディアMinimaは、この課題に向き合うため、エキゾチックアニマルに特化した動物病院の情報共有サービス「ミニケア」を立ち上げます。
サービス開始に先立ち、特別連載「エキゾのはなし。」をスタート。飼い主、事業者、そして獣医師の方々に登場いただき、エキゾチックアニマルとの暮らしや、ケアの現状と課題について様々な視点から語っていただきます。
第8回のゲストは、鎌倉で「かわいい生きものミュージアム」を運営する土橋正臣さん。約50種類のエキゾチックアニマルを飼育する施設を開業して1年。観光地という立地を活かした運営の工夫、動物たちの健康管理、そして動物と人間の共存について、たっぷりお話を伺いました。
——目的を持って来られる方よりも、ふらっと立ち寄る方が多いんでしょうか?
はい、その通りです。「こんなところに可愛いエキゾチックアニマルのミュージアムがある。」と偶然見つけて入店されるお客様が大半を占めます。普段触れたことのない、見たことのない動物に、思いがけず出会える。その意外性や新鮮さが、お客様から大変ご好評をいただいています。
—初めての体験を提供できるということですね。
初めてエキゾチックアニマルに触れる体験をできるのが、私たちの強みです。フクロウや爬虫類といった、これまで遠い存在だった動物たちに触れることで、「こういう動物も人間と生活を共にできるんだ」という新たな発見につながります。お客様がそうした気づきを得てくださることが、私たちの目指すコンセプトとも合致しており、大変嬉しく思います。
小さい頃から培ってきた「生きものとの距離感」

——前回のインタビューで、土橋さんご自身も昔から動物を飼われているとお伺いしました。今もご自宅で多くの動物を?
はい、小学校の頃からずっと飼っていますね。特に魚類は、これまで相当な数を飼ってきました。古代魚から熱帯魚、海水魚まで、アマゾンの熱帯魚はほとんど飼ってきました。日本国内に輸入許可されている魚で、飼ったことのない魚はいないぐらいです。現在は、アロワナとかポリプテルスなど、古代魚7種類とフクロウを飼っています。
——長年の飼育経験が、今の仕事に活きているんでしょうね。
長年の飼育経験が今の基盤になっています。特に小さい頃は、知識がないなりに一生懸命飼育しても、残念ながらうまくいかない失敗も経験しました。しかし、そうした経験があったからこそ「この方法ではダメなんだ」という教訓を得て、正しい飼育法を深く追求できました。命の大切さは、言葉で学ぶのではなく、一つひとつの経験を通して実感し学んでいくことが重要だと思います。

——ご自身の経験も含めて、今に繋がっているんですね。
はい、その通りです。長年の経験を通じて、動物との適切な距離感や、僅かな異変を見抜く洞察力が身につきました。飼育している動物が体調を崩した際も、「いつもと様子が違う」と感じた瞬間に、すぐさま動物病院へ連れて行ける。この早期の見極めと迅速な行動こそが、動物の命を守る上で最も重要だと実感しています。
健康管理の要は「早期発見」と「チーム体制」

——この1年で、動物たちの健康管理について新たに分かったことはありますか?
この1年、改めて痛感したのは、やはり『早期発見・早期治療』に尽きるということです。動物たちの健康管理において、最も重要なのは、いかに早く異変に気づけるか。わずかな動きの変化や、普段と違う仕草を絶対に見逃さない観察力が必要です。人間の場合と同じく、早期発見が命を守る唯一の方法だと確信しています。
——特に小動物は症状を隠すと聞きます。
はい、小動物は特に症状を隠します。野生下では、病気や弱みを見せることは捕食されることを意味するため、これは彼らの本能的な防御行動なんです。例えばフクロウは、体調の変化をギリギリまで隠し通します。目に見える形で表情や仕草に症状が出た時には、手遅れになるケースが多い。だからこそ、日頃から微細な変化を察知し、早期に対応することが、命を守る上での絶対条件だと再認識しました。

——具体的にはどのような体制を作られたのでしょうか?
スタッフ全員が動物たちの『命を守る』という共通の意識を持つ体制を構築しました。特定の誰か一人が担うのではなく、働いている全員が動物の異変にいち早く気づき、すぐに報告し合うという情報共有を徹底しています。正社員だけでなく、週に一度や二度勤務するパートのスタッフも含め、『どんな小さな体調の変化でも、必ず報告する』ことをルールとして義務付けています。」
——報告しやすい雰囲気作りも大切ですね。
報告しやすい雰囲気作りは極めて重要です。まず、仕組みの面では、動画通話などのツールを活用し、スタッフが異変に気づいた際にその場からすぐに報告できる体制を整えています。これにより、遠隔でも迅速に動物の状態を確認し、適切な手当ての指示が出せます。心構えの面で大切にしているのは、『自分のペットと同じ気持ちで動物を見ること』です。自分で飼っているペットであれば、少しでも異変があれば決して放置しないはずです。だからこそ、スタッフが「変だな」とわずかでも感じたら、必ず報告するという意識を、全スタッフで共有しています。

——動物のお世話に関わる人の人数が増えるほど、大事なことですね。
お世話に関わる人数が増えるほど、この意識の共有は不可欠です。私たちは、動物たちを家族のように大切に思っています。自分の子どもや親の体調を気にかけるように、心配するのは当たり前のことですよね。この『家族に対するのと同じ感覚』を、スタッフ全員が持つことが大切だと指導しています。私たちが命の責任を負っているという意識を、『かわいい生きものミュージアム』で働く全員で共有し、日々実践しています。
——そうした体制が、実際に成果として表れているのですね。
はい、おかげさまで、構築した体制は明確な成果として表れていると実感しています。この1年間、動物たちは大きなトラブルなく元気に過ごしてくれています。もちろん、小さな体調不良で動物病院にお世話になることもありますが、『早期発見・早期対応』が徹底できているため、大事に至っていません。スタッフ全員で共有したこの体制こそが、動物たちの健康維持に最も貢献してくれたと考えています。
動物たちの管理は「誰が見てもわかるようにしておくことが大切」

——体調を崩した子が出た場合は、どうされているのですか?
体調不良の子が出た場合は、徹底した隔離体制で対応します。この事業を行う上で、病気の子を隔離する専用の部屋の確保は必須条件であり、法律上の許可にも関わる重要な点です。万が一、病原菌を持っていた場合、他の動物への感染を防ぐため、バックヤードとは別に自宅に専用の隔離部屋を用意しています。
体調を崩した動物はすぐにそこに連れて帰り、知識と経験のある私が責任を持ってケアを行います。スタッフに任せるよりも私自身が直接世話をすることで、最善の静養環境を提供し、良い状態に回復させてからミュージアムに戻すという流れです。
——一般家庭でも参考になりますね。
はい、一般のご家庭でも必ず参考になります。体調を崩した時のために、専用の部屋がなくても一角でも構いませんから、簡易的な静養スペースを作ってあげることをおすすめします。人や他のペットがあまり近寄らない、静かで落ち着ける場所を確保してあげる。その『安心できるコーナー』があるだけで、動物たちの回復力は大きく変わってきます。

——あと空間づくりにも工夫がありますね。
はい、空間づくりには特別なこだわりを持っています。私たちは、動物たちが快適に過ごせるよう、『美しく清潔な環境で飼育する』ことを最も大切にしています。アンティーク家具を用いた洗練された空間でありながら、裏側では最新のシステムなどを導入し、動物の快適性を追求しています。また、当店のスタッフは全員が豊富な飼育経験を持っていますので、動物をどう飼えば良いかといった具体的なアドバイスもできるので、ぜひお気軽にお声がけください。
——清掃も徹底されているとか。
動物の健康管理において、『清掃』は命綱です。スタッフ全員に最も徹底しているのは、この清掃の重要性です。フクロウなどは一日に大量の羽が落ちますので、毎日隅々まで徹底的に行っています。清掃は単に環境を清潔に保つだけでなく、動物たちの体調変化をチェックする重要な機会でもあります。排泄物の状態や、落ちている羽、ケージ内の変化などを確認することで、微細な異変の早期発見に繋がります。
——健康状態の記録はどのように管理されていますか?
動物たちの健康記録はエクセルで一元管理しています。これは非常に重要なプロセスです。それぞれの個体ごとに、日々の様子や小さな体調の変化を詳細に記録しています。これにより、いつから体調を崩し始めたのか、どのような経緯をたどったかが瞬時に把握できます。このデータがあることで、迅速で的確な対応、そして動物病院への正確な情報提供が可能になります。

——デジタル管理なら、スタッフ間での共有もしやすいですね。
デジタル管理の最大のメリットは、スタッフ間での迅速かつ正確な情報共有ができることです。誰がいつ見ても、個体の状態や過去の経緯がすぐに把握できるようにしておくことができます。この情報共有が、動物の命を守る上で欠かせない基盤になっています。
エキゾチックアニマル専門の獣医師との連携
——動物病院との連携体制についても教えていただけますか?
当館は「横浜エキゾチック動物病院」の関根先生と連携させていただいています。先生は、犬や猫の診療は行わず、エキゾチックアニマルの診療に完全特化されている、極めて専門性の高い先生です。フクロウ、ウサギ、カメ、ヒョウモントカゲモドキ(レオパ)など、非常に幅広い種類の動物の専門治療を行ってくださるため、私たちは安心して動物たちを預けられています。
——完全にエキゾチック専門なのですね。
はい、関根先生は、田園調布動物病院で研鑽を積まれた、エキゾチックアニマル分野での確かな知識と技術を持つ名医です。緊急時の対応力も非常に高く、私たちの運営において欠かせない存在です。

——ここで動物をお迎えした方にも紹介されるんですか?
はい、動物をお迎えいただいたお客様には、必ず連携先の「横浜エキゾチック動物病院」をご紹介しています。もちろん、お住まいの地域によっては他にも信頼できる良い先生方が多くいらっしゃると思いますので、最終的にはお客様にご判断いただく形を取っています。まずは専門医の確かな情報をご提供することを大切にしています。」
——専門医にかかることの大切さは、人間と同じですね。
専門医にかかることの重要性は人間と全く同じです。犬の診療に特化した先生、猫の診療を得意とする先生がいるように、動物医療にも専門分野が存在します。専門外の治療を受けると、本来であれば救えるはずの命も救えなくなってしまうリスクがあります。ですから、その子の症状や種類に合った専門的な知識と技術を持つ動物病院を、飼い主様が責任を持って選ぶことが極めて大切だと思います。
動物と共存するには「人間本位にならないことが大切」
——改めて、動物たちと人間が一緒に暮らしていくことについて、お考えをお聞かせください。
やっぱり、人間本位にならないことが大切だと思います。飼い主のためにいてくれているのだから、動物に感謝した方がいい。そのためには、わずかな体調変化にも気づき、常により良い環境を提供できるよう努め続けること、共に生活する上で、お互いのために適切な距離感を保ち、定められたルールを遵守して接することが大事だと思います。
——ルールというのは?
例えば、犬は飼い主がリードをして歩かせます。あれは拘束じゃなくて、安全のためですよね。人間と一緒に共生するためには、それらのルールを守ったうえで、楽しく暮らすことを考える必要があると思います。

——野生動物を飼うことについては、どうお考えですか?
野生動物の飼育について、私はブリーディングされた個体をお迎えすることを推奨します。もし野生の個体を飼育される場合は、その動物にとって真に適切な環境を整えることが飼い主の不可欠な責任となります。 飼い主は、単にエサを与えるだけでなく、個々の動物の生態に合った飼育環境を提供し、彼らがストレスなく幸せに暮らせているかを常に深く考え、命を預かることへの感謝の気持ちを持ち続ける必要があると考えます。
——それぞれの動物への愛情も、お互いに認め合うべきですね。
はい、お互いの動物への愛情や価値観を認め合うことは、非常に大切なことです。例えば、爬虫類の中でも蛇を愛する人に対して、世間からの理解が得られにくい場合があります。しかし、その方にとっては、その蛇が本当に可愛く、大切な家族なのです。同様に、犬に対して苦手意識を持つ人がいるかもしれない。人それぞれ、動物に対する価値観や感情は異なって当然です。大切なのは、この多様な価値観を互いに尊重し合うことです。なぜなら、飼育されている動物たちは、種類が違っても皆、同じ一つの命だからです。私たちは、どうしたらすべての生き物と共生できるのかを常に考え続ける必要があります。明確な答えはないかもしれませんが、生き物の命を預かっているという強い意識を持つことが、最も重要な土台になると確信しています。
観光地にある意味は「考えるきっかけになれたら」

——最後に、かわいい生きものミュージアムとしての役割についてお聞かせください。
当館は、観光地という立地を最大限に活かし、ご来館いただいたお客様に「動物ってこんなに素敵なんだ」と純粋な喜びを感じていただき、普段出会えない生きものたちとの非日常的な体験をご提供できればと思っています。そして、その体験から一歩踏み込んで、生き物の飼育や保護、共生のためにどう向き合うべきかを考える機会を創出することが、私たちの最も重要な役割です。動物たちとの温かい出会いが、すべての人々の『生きものに対する意識』を変える一歩となることを願っています。
——これから動物を飼おうと考えている方へ、メッセージをお願いします。
動物を迎え入れることを決めたら、まず信頼できる動物病院(獣医師)とすぐに連携が取れる体制を整えておくことが極めて重要です。体力の少ない動物は容体が急変しやすいため、この迅速な医療体制の確保が命を守る第一歩となります。人間と同じく、早期発見・早期治療、そして予防のための定期検査が、長く健康に過ごすための鍵になります。これらの適切な健康管理ができれば、飼育は決して難しいものではありません。どうか、その小さな命を家族として精一杯大切にし、常に動物たちへの感謝の気持ちを持って接してほしいと思います。
——ぜひ、多くの方に『かわいい生きものミュージアム』を訪れてほしいですね。
はい、ぜひ多くの方にお越しいただきたいと願っています。当館では、約50種類のエキゾチックアニマルたちが、皆様との出会いをお待ちしています。実際に動物たちと触れ合っていただくことで、彼らの愛らしさを感じていただくとともに、『動物と共に暮らすとはどういうことか』を深く考える、良いきっかけになることを願っています。鎌倉にお越しの際は、非日常の体験と学びに満ちた当館に、ぜひお気軽にお立ち寄りください。
Minimaでは「ミニケア」の本格始動に向けてクラウドファンディングを11月12日(水)16:00より実施します。
小さな命を守るために、エキゾチックアニマルの診療環境を一緒に変えていきませんか。あなたの応援が、誰かの大切な家族を救うことにつながります。
クラウドファンディングURL:https://readyfor.jp/projects/minicare
ミニケアX:https://x.com/minicare_app
■施設概要
かわいい生きものミュージアムCAM鎌倉
(英語表記:CUTE ANIMAL MUSEUM KAMAKURA )
営業時間:11:00~17:00(最終入場16:00)
料 金:1,600円(50分)※3歳未満は無料
所在地:〒248-0006神奈川県鎌倉市小町2-8-7 すみのプラザ3F
アクセス:鎌倉駅東口より徒歩3分、小町通り
休館日:なし ※都合によりお休みする場合は、HPやSNSでお知らせ
公式サイト:https://cuteanimalmuseum.com