日本を代表する観光名所・鎌倉に誕生した、英国アンティークに囲まれてエキゾチックアニマルと触れ合える博物館を知っていますか?
2024年12月にオープンした「かわいい生きものミュージアム」には、フクロウやチンチラ、うさぎにイグアナなどたくさんの動物たちがいます。
アンティーク家具をリメイクしたケージで飼われていて、一般的な「ふれあいカフェ」とは一線を画すエレガントさがあります。
なぜこのような博物館が鎌倉の中心地にできたのでしょうか? 株式会社ファーマブリッジ 代表の土橋正臣さんに、お話を聞きました。
「私は全ての生きものは可愛いと思っています」

——小動物を専門に扱っている私たちMinimaにとって、「かわいい生きものミュージアム」の誕生は驚きでした。改めてテーマを教えてください。
土橋正臣さん:「生きものは全て可愛い」というのがテーマです。たとえば、ここにはいろいろな動物がいますが、訪れる方の中には「爬虫類はそれほど可愛くない」と思っている方もいらっしゃいます。しかし、世の中には爬虫類を可愛いと思っている人も、実際にいますよね。私は全ての生きものは可愛いと思っており、そういうテーマの博物館にしました。
——場所はなぜ鎌倉の小町通りにしたのでしょうか?
土橋さん:鎌倉に来た多くの観光客は、神社に行ってお参りをして、大仏を観て、小町通りを食べ歩いて帰っていく、という流れが多いです。観光客が多く集まる場所なので、ここで本物のアンティークや生き物を見ることができる博物館を作ったら、偶然でも目に留まる機会が増えていいだろうと思ったのです。

——鎌倉にこんな素敵な場所ができたことが驚きでした。土橋さんは2022年にも若宮大通に「英国アンティーク博物館」をオープンされています。なぜこうしたミュージアムの事業を立ち上げられているのでしょうか?
土橋さん:きっかけは、30年前にイギリスに行ったことでした。イギリスには「ナショナルトラスト」という、古いものを大切にし、動物も大切にする運動があり、自然や建物、アンティーク家具などを大切にする土壌があるのです。
そうした文化を見て、なんて素晴らしい国なのかと感動しまして。そして日本で自分のためにアンティークを輸入し始めたのです。
そうしてアンティークがだんだんと集まってコレクションになってきたため、いつか博物館を作ってみんなに見せたら、イギリスに行かなくとも、みなさんが“本物”を見て同じように感動してくれるのではないか、と考えたのです。それで最初に「英国アンティーク博物館」を作りました。
ナショナルトラストの影響とピーターラビット

——「英国アンティーク博物館」へ伺いましたが、アンティークの美しさはもちろん、アーサー・コナンドイル直筆の手紙や『シャーロック・ホームズ』の初版本まで揃えられていて驚きました。その後、「かわいい生きものミュージアム」を立ち上げられたのはなぜでしょうか?
土橋さん:幼い頃から生きものが大好きで、ずっといろいろな生きものたちを飼ってきたのです。田舎にいたころは、田んぼにいるザリガニやおたまじゃくしから始まり、イグアナから海水魚まで、さまざま飼い続けてきました。そういう小動物たちの素晴らしさを伝えなければいけないと思っていたのがひとつ。
そして今から50年前、鶴岡八幡宮の裏山である御谷(おやつ)の森は、全部宅地になる予定だったのです。そのときに、ピーターラビットの作者であるビアトリクス・ポターが支援した英国のナショナルトラストをもとに、鎌倉でも運動が起こり、御谷の森が守られたのです。
——御谷の森は「英国アンティーク博物館」からも見えますね。
土橋さん:その2年後の1966年には日本でも古都保存法ができて、京都と奈良が守られることになりました。つまり、日本を守ったのは英国のナショナルトラストなのです。ピーターラビットが守ったようなものですよね。
ということは、そのピーターラビットの絵本に出てくる動物たちを自分が展示するのがいいのではないか。そう思い、フクロウ、ウサギ、ハリネズミを中心に、過ごしやすい環境で展示しています。
つまりピーターラビットの中に出てくる動物たちをメインとして、その仲間たちということ。ここにいるのは彼らの仲間たちなのです。それが楽しそうに暮らしているのです。
触れ合う動物たちが快適に過ごすための工夫

——素敵ですね。“過ごしやすい”という言葉がありましたが、動物たちのためにどんな工夫をされていますか?
土橋さん:まず、展示が終わったあとの時間は走らせてあげたり、できるだけ好きなようにさせてあげる時間をしっかりと取るようにしています。フクロウだったらフライトさせてあげたり、うさぎやチンチラたちを出して遊ばせたりとか。
爬虫類たちは遊ばせようがないのです、ケージの中でもう遊んでいるので(笑)。常に走り回っていますし、彼らの一番の楽しみはバスキングなので。バスキングというのは、光でUVを与えること、つまり日向ぼっこのことです。今は時間でUVを調整できるバスキングライトを導入していて、朝から夜にかけて照度を変えているんです。
——もともとの環境を再現してあげるのはとてもいいですね。
土橋さん:常に自然環境と同じ状態にさせることが大切です。通常では砂漠にいる子は、砂漠にいる状態を作るバスキングにしています。これはとても熱い状態になっています。

——でも室内は空調がしっかり効いています。
土橋さん:やはり温度・湿度管理が一番気をつけなければならないので、しっかりと室温に高低差をつけているんです。爬虫類は奥の方に位置していますが、チンチラは27度を超えると熱中症になってしまうので、入口の方に配置して空調をコントロールしています。

——なるほど…! あと、匂いも全然しないのはなぜですか?
土橋さん:まず清潔にすることを徹底しています。そしてフクロウたちですが、夜は常にペットシートを下に敷き詰めていて、その上で、餌を夕方の5時までに与えきるようにしています。
そうして消化されると、朝の5時ぐらいまでに糞を全部出し切るので、あとはペットシートを全部捨てる。昼間はしたものだけ、簡単に拭き取るだけになるように工夫しています。なので、職員はみんなウェットティッシュを常備しています。
フクロウは、これだけいると床が糞だらけになってしまうんです。一般的なフクロウカフェだと人工芝を敷いておいて、1週間ごとに洗う、というようなところも多く、そうするとすごい匂いがしますよね。ほかにも新聞はコストは低いですが吸収力がありませんし、いろいろシミュレーションした結果、このシステムになりました。
英国アンティーク×動物の美しさは必見!

——すごい徹底ぶりですね! これだけ整っていれば、動物たちも快適に過ごせます。あと、小動物が入っているケージも全部アンティークですか?
土橋さん:そうです。「英国アンティーク博物館」にあったものから持ってきて、横の板を抜いて網にしています。そして、爬虫類はバスキングライトを入れて光を入れたら、格好よくないですか?
——とても美しいです…!
土橋さん:でも、キャビネット1つで100万円するんです(笑)。これ、全部本物だからね。(手近なキャビネットを指差して)これはビクトリア時代のものですね。約120年前。ケージ用にアレンジをしていますが、うちにはアンティークの職人がいるので、オリジナルで全部作らせました。
——このアンティークの空間だと、シロフクロウのロビンくんが映えますね。
土橋さん:ロビン館長くんはいま、毛がふさふさです。普段は雪の上にいるので、足までふさふさですね。

ロビン館長はとても人間に慣れているのですが、シロフクロウはものすごく神経質なのです。フクロウの中で、飼育が一番難しいとされているのですが、私が最初に飼ったフクロウもシロフクロウでした。なぜかというと、私は『ハリー・ポッター』が大好きだから。
——ハリーのヘドウィグですね(笑)!
土橋さん:ヘドウィグが欲しくてたまらなくて、間違って買ってしまったのです(笑)。そうしたら全然言うことを聞かなくて。それでフクロウを購入した知り合いのところに行くと、その人はロビンを手にパッと乗せたんです! すごく驚いて聞くと、扱い方があるそうです。それで実践してみて、いまではどんなフクロウでも乗せられるようになりました。
話を聞けば聞くほど、動物たちへの愛が溢れる土橋さん。
これだけの博物館を手がけられてきた土橋さんは、いったいどんな人物なのか。インタビュー後編では、動物たちへの思いと博物館を手がける意味について、深くお話していただきました。