うさぎと暮らしていると、家具やぬいぐるみ、時には飼い主の手や腕にまで、あごをすりすりとこすりつけている姿を目にすることがあるのではないでしょうか。あの愛らしいしぐさを見て、思わずキュンとしてしまう方も多いはずです。
結論からお伝えすると、うさぎのあごすりはあごの下にある「臭腺(しゅうせん)」を使ったマーキング行動です。「これは自分のもの」「ここは自分の場所」と主張するために、自分のにおいをつけているのです。ただし、あごすりにはマーキング以外にもさまざまな意味が隠されています。
この記事では、うさぎがあごをすりすりする理由や臭腺の仕組み、飼い主にあごすりをする場合の気持ち、さらにはあごすりの頻度が変化したときに気をつけたいポイントまで、幅広くお伝えしていきます。うさぎの気持ちをもっと深く知りたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
うさぎのあごすりとは?基本の仕組みを知ろう

あごの下にある「下顎腺」がにおいの正体
うさぎの体には3種類の臭腺があり、あごの下にある「下顎腺(かがくせん)」がそのひとつです。この下顎腺からは分泌液が出ていて、うさぎはあごを物や人にこすりつけることで、自分だけのにおいを付着させています。
おもしろいのは、この下顎腺から出るにおいは人間にはほとんど感じられないという点です。飼い主が顔を近づけてクンクンと嗅いでみても、「動物のにおいがするかな?」という程度。しかし、うさぎの嗅覚は人間よりもはるかに優れているため、うさぎ同士にとっては個体を識別するための大切な情報源になっています。
ちなみに、うさぎの残りの2つの臭腺は肛門付近にある「肛門腺」と「鼠経腺(そけいせん)」です。これらは縄張りの主張や個体同士の情報伝達などに幅広く使われていて、下顎腺と比べるとかなり強いにおいを持っています。あごすりのにおいが気にならないのは、下顎腺の分泌液がもともと穏やかなものだからなのです。
マーキング行動としてのあごすり
うさぎは縄張り意識がとても強い動物です。野生のうさぎは群れで暮らしながらも、自分のテリトリーをしっかりと主張する習性があります。その名残が、家庭で飼われているうさぎにも色濃く残っているわけです。
部屋んぽ(室内での散歩)をさせているときに、ソファの脚やカーペットの角、ケージの中のエサ皿や給水器に次々とあごをすりつけている光景は、まさにその表れです。うさぎにとっては「ここから全部、自分のもの!」と宣言しているようなものなので、掃除をしてにおいが薄くなると、改めてすりすりし直す子もいます。
英語では、このあごすり行動を「チンニング(chinning)」と呼ばれていて、うさぎにとってはごく自然で本能的な行動のひとつとされています。
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うさぎが飼い主にあごすりをする理由

「飼い主は自分のもの」という独占欲
うさぎが飼い主の手や腕、膝の上などにあごをすりすりしてくることがあります。これは物へのマーキングと同じように、「この人は自分のもの」と主張している行動だと考えられています。
特に多頭飼いをしている場合は、この傾向が顕著になることがあります。他のうさぎに飼い主を取られたくないという気持ちから、しきりにあごをこすりつけてくる子もいるのです。「自分のにおいをしっかりつけておけば安心」という本能が働いているのでしょう。
信頼と安心感のサイン
ただし、飼い主へのあごすりはマーキングだけが目的ではありません。リラックスした状態で飼い主に近づき、あごを預けるようにすりすりしてくる場合は、信頼の証でもあります。
うさぎは警戒心の強い動物ですから、安心できない相手にはなかなか体を預けません。あごすりをしてくるということは、その相手のそばにいると安全だと感じている裏返しです。指を差し出したときにあごを乗せて、ゆっくりとすりすりしてくれるようなら、それはうさぎからの「あなたのこと、信頼しているよ」というメッセージだと受け取ってよいでしょう。
挨拶やコミュニケーションの手段として
飼い主さんの中には、毎日のルーティンとして指を差し出すと必ずあごすりを返してくれる、という経験をしている方もいます。このような場合、あごすりは挨拶やコミュニケーションの手段になっていると考えられます。
うさぎは声を出してコミュニケーションを取ることが少ない動物です。その代わりに、体の動きやしぐさで気持ちを伝えています。あごすりもそのひとつで、「おはよう」「ただいま」のようなやり取りとして定着しているケースもあるのです。
オスとメスであごすりの頻度は違う?

オスのほうがマーキング頻度は高い傾向
あごすりを含むマーキング行動には男性ホルモン(テストステロン)が深く関わっているとされています。そのため、一般的にはオスのほうがメスよりもあごすりの頻度が高い傾向があります。
実際に、オスのうさぎのあごの下を触ってみると、下顎腺からの分泌液で少しベタベタと湿っていることがあります。メスに比べて分泌量が多いためで、オスのあごの毛がやや固まっているように見えるのはこのためです。
メスもあごすりをする
とはいえ、メスがまったくあごすりをしないわけではありません。メスも自分のテリトリーを主張するためにあごすりをしますし、子育ての場面では子うさぎに自分のにおいをつけて、我が子だと識別するために下顎腺を使います。
また、動物行動学の研究では、チンニングの頻度にはオス・メスという性別差よりも、個体差のほうが大きいという報告もあります。つまり、「よくやる子」と「あまりやらない子」がいて、性別だけでは判断できないのです。縄張り意識の強さやその子の性格、飼育環境などが複合的に影響していると考えられています。
去勢・避妊手術後の変化
去勢手術を受けたオスの場合、男性ホルモンの分泌が減るため、あごすりの頻度が穏やかになることがあります。ただし、完全になくなるわけではなく、習慣として続ける子も少なくありません。手術後のマーキングの変化には個体差があるため、「手術をしたのにまだあごすりをしている」と心配する必要はないでしょう。
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うさぎがあごすりをしやすい3つのタイミング

①新しいものに出会ったとき
うさぎがとりわけ激しくあごすりをするのは、新しいものが身の回りに加わったときです。新しいおもちゃ、新しいケージの備品、買い替えた布製のベッドなどを与えると、まず最初にあごをゴリゴリとこすりつける姿が見られます。
これは「未知のもの」に自分のにおいをつけて、自分のテリトリーの一部に組み込もうとする本能的な行動です。気が済むまでしばらくすりすりし続ける子もいて、その真剣な表情はなんとも微笑ましいものがあります。
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外出から帰った飼い主に対して
外出して帰ってきた飼い主さんの服や手にも、うさぎは念入りにあごすりをすることがあります。これは、外のさまざまなにおいが付着しているのを感じ取って、改めて自分のにおいで上書きしようとしているのです。
特に他の動物と触れ合ったあとなどは、普段以上に熱心にすりすりしてくることがあります。うさぎにとっては「自分以外のにおいがついている=ちょっと不安」という状態なのかもしれません。
部屋んぽの最初と最後
部屋に出した直後、まず自分のテリトリーをパトロールするようにあちこちにあごすりをして回る子は多いです。これは縄張りの確認作業のようなもので、前回の部屋んぽでつけたにおいが薄くなっていないかチェックしている意味もあります。
部屋んぽの終わりにも、ケージに戻される前に駆け足であごすりをするうさぎもいます。「まだここは自分の場所だからね」と最後のアピールをしているのかもしれません。
あごすりが増えた・減ったときに気をつけたいこと

あごすりが急に増えた場合
あごすりの頻度が急に増えた場合、いくつかの原因が考えられます。ひとつは環境の変化です。引っ越しをした、ケージの場所を移動した、新しい家具を置いたなど、生活空間に変化があると、うさぎは落ち着かなくなり、マーキングの頻度を上げて自分のにおいで空間を満たそうとします。
もうひとつは思春期や発情期の影響です。生後半年ごろからホルモンの影響でマーキング行動が活発になることがあり、あごすりだけでなく、おしっこを飛ばすスプレー行為が増える場合もあります。
また、多頭飼いの環境で新しいうさぎを迎えた場合にも、先住のうさぎのあごすりが増えることがあります。これは自分の縄張りが脅かされていると感じているサインです。
いずれの場合も、あごすり自体は正常な行動なので過度に心配する必要はありません。ただし、あまりにも落ち着きなくマーキングを繰り返している場合は、うさぎがストレスを抱えている可能性があるため、環境を見直してあげるとよいでしょう。
あごすりが減った・しなくなった場合
逆に、今までよく行っていたあごすりが急に減った場合は、少し注意が必要です。うさぎがあごすりをしなくなる原因としては、体調不良やストレスによる活動量の低下が考えられます。
うさぎは体調が悪くても我慢して隠す傾向がある動物です。あごすりの減少に加えて、食欲が落ちている、うんちが小さくなった、じっとしている時間が増えたといった変化が見られる場合は、早めに動物病院を受診することをおすすめします。
一方で、年齢を重ねるにつれてマーキング行動が自然と落ち着いてくるケースもあります。若い頃ほど頻繁にはしなくなったけれど、元気にご飯を食べて走り回っている、という場合は心配いらないことが多いです。
あごすりとあご乗せの違い

うさぎの「あごすり」と「あご乗せ」は似ているようで、実は少しニュアンスが異なります。
あごすりは、あごを対象物や人にこすりつける動作で、マーキングや所有権の主張が主な目的です。動きとしてはやや素早く、キュッキュッとこするようなしぐさになります。
一方、あご乗せは、飼い主の手や腕の上にそっとあごを置いてじっとする行動です。こちらはマーキングというよりも、安心感やリラックスの表現と考えられています。子どもが親の膝の上で安心するのと同じような心理が働いているのでしょう。
あご乗せをしているときのうさぎは、目を細めていたり体の力が抜けていたりすることが多く、心から安心しきっている状態です。あごの下はうさぎの体の中でも特にふわふわした部分なので、飼い主にとっても至福のひとときになるはずです。
ただし、あご乗せはリラックスの表現として見られることが多い一方で、状況によっては**「場所取り」や自己主張のように見える**こともあります。たとえば、飼い主の頭や体の上にあごを乗せたまま動かない場合は、そうした意味合いが含まれているかもしれません。噛みつきや追い払うような動作が同時に出ているようであれば、接し方や環境を一度見直してみるとよいでしょう。
あごすりをされたとき、飼い主はどうすればいい?

基本的にはそのまま好きにさせてOK
うさぎのあごすりはごく自然な本能行動ですから、基本的には好きなだけさせてあげて問題ありません。むしろ、あごすりを無理にやめさせようとすると、うさぎにとってはストレスになります。
「自分のにおいがする場所は安全」とうさぎは判断しているので、あごすりを十分にさせてあげることで、その子にとって安心できる居場所を作ることにもつながります。
においが気になる場合の注意点
下顎腺のにおいは人間にはほとんど感じられないため、あごすりによるにおいが問題になることはまずありません。ただし、掃除で家具やカーペットのにおいを消しすぎると、うさぎは不安になって余計にマーキングを繰り返すことがあります。
消臭剤を使用する場合は、香り付きのものではなく無香料タイプを選ぶのがおすすめです。強い香りはうさぎの嗅覚にとって刺激となり、かえってマーキング行動を助長してしまう恐れがあります。うさぎの鼻はとても敏感ですから、人間にとっては心地よいアロマの香りでも、うさぎにはきついと感じることがあるのです。
あごすりを通じてコミュニケーションを楽しむ
うさぎがあごすりをしてきたときに、そっと指を差し出してすりすりさせてあげたり、「ありがとうね」と声をかけながらゆっくりと撫でてあげたりすると、うさぎとの信頼関係はさらに深まっていきます。
うさぎは言葉を話しませんが、あごすりというボディランゲージを通じて、飼い主にさまざまなメッセージを送っています。そのメッセージを受け止めてあげることが、うさぎとの暮らしをより豊かにしてくれるのではないでしょうか。
まとめ
うさぎのあごすりは、あごの下にある下顎腺から分泌液を出して自分のにおいを付けるマーキング行動です。「これは自分のもの」という所有権の主張が基本的な意味ですが、飼い主に対してはそこに信頼や安心感、コミュニケーションの要素も加わります。
オスのほうが頻度は高い傾向にあるものの、メスもあごすりをしますし、頻度には個体差があります。新しいものを与えたときや環境が変わったときに増えやすく、体調不良や加齢で減ることもあります。
あごすりはうさぎにとってごく自然な行動ですから、基本的にはたっぷりとさせてあげてください。あごの下のふわふわに癒されながら、うさぎが伝えようとしている気持ちを受け取ってあげましょう。あごすりのひとつひとつに、その子ならではの想いが込められているはずです。