SNSのタイムラインで、ずんぐりむっくりした動物が2本足で立ち上がり、お互いの肩をつかんで「ぎゅいーん」と身体を伸ばし合う動画を見かけたことはないでしょうか。あれが今SNSで大人気のマーモットの喧嘩です。
結論から言うと、あのシュールな取っ組み合いの多くは、「模擬戦闘(プレイファイティング)」と呼ばれるじゃれ合いです。本気で相手を傷つけようとしているわけではなく、仲間同士の社会的なコミュニケーションとして行われている行動なのです。
この記事では、「ぎゅいーん」の正体は何なのか、模擬戦闘にはどんな意味があるのか、そして本気の喧嘩とは何が違うのかを、マーモットの生態とあわせて詳しく紹介していきます。
マーモットの喧嘩の正体は「模擬戦闘」
「模擬戦闘(プレイファイティング)」とは何か
SNSで話題になっているマーモットの喧嘩の多くは、厳密に言えば「模擬戦闘(プレイファイティング)」と呼ばれる行動です。特に子マーモット同士のやり取りにこの傾向が強く、立ち上がって互いの肩や顔をつかみ合い、押し合いをする姿は、「喧嘩」というよりも「押し相撲」のようなじゃれ合いに近いものです。
噛みついたり、突き飛ばしたりするような激しい攻撃に発展することは少なく、どちらかが退いた時点で自然と終わるのが一般的。勝敗がはっきりしないまま、なんとなくその場を離れたり、直後にエサを食べ始めたりする光景もよく見られます。あの「平和すぎる決着」こそが、マーモットの喧嘩がバトルではなくコミュニケーションの一種であることを物語っています。
模擬戦闘にはちゃんとした役割がある
ただのふざけ合いに見える模擬戦闘ですが、マーモットの社会生活においてはしっかりとした役割を持っています。
まず、群れの中での上下関係を確認する手段になっているという点。マーモットはコロニーと呼ばれる家族単位の群れで暮らしていて、個体間の序列が社会の秩序を保つ上で大切な意味を持ちます。模擬戦闘を通じてお互いの力関係を穏やかに確認し合うことで、深刻な争いに発展するのを未然に防いでいるのです。
さらに、若い個体にとっては「戦いの練習」という側面もあります。天敵であるキツネやオオカミ、ワシなどに襲われた際に身を守るための身体の動かし方を、仲間同士のじゃれ合いの中で自然と学んでいくわけです。模擬戦闘は群れの結束力を高め、共通の外敵に対して協力して立ち向かう力を養うトレーニングでもあるとされています。
この行動は動物行動学では儀式化された戦い(ritualized fighting)とも呼ばれ、チンパンジーやオオカミ、カラスなど他の社会性の高い動物にも見られるものです。マーモットの取っ組み合いは、実は高度な社会システムの一部なのです。
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本気の喧嘩と模擬戦闘は何が違う?

成体同士の縄張り争いは別物
SNSの動画で見る「ぎゅいーん」な喧嘩は平和そのものですが、野生の成体マーモット同士が本気で縄張りを争うときは、また違った様子を見せます。鋭い爪や大きな切歯を使うこともあり、場合によっては怪我に至るケースも報告されています。
本気の喧嘩が起こる主な原因は、縄張りの境界をめぐる対立、繁殖期のメスをめぐるオス同士の競争、そしてエサの奪い合いなど。繁殖期の春先から初夏にかけては、特にオス同士の争いが激しくなることがあります。
ただし、本気の喧嘩であっても「1対1」のルールが暗黙のうちに守られているという観察報告があるのは興味深い点です。3匹のマーモットが同時にいた場合でも、1匹が戦っている間は残りの1匹が手を出さずに待ち、片方が退いてから次の対戦が始まるという場面が映像で確認されています。
仲裁に入る仲間がいる
マーモットの喧嘩動画で特に人気が高いのが、第三者のマーモットが仲裁に入るシーンです。2匹が取っ組み合いを始めると、それを見ていた別の1匹がすくっと立ち上がり、間に割って入って喧嘩を止めようとする。
背中から押さえつけたり、戦闘中の1匹の間に体を割り込ませたりと、仲裁の仕方にもバリエーションがあります。止められても聞かずにまた戦い始める2匹と、それでもそばを離れない仲裁役。SNSでは「兄弟喧嘩にそっくり」「止め役がいちばん大変そう」といった反応が多く寄せられています。
こうした仲裁行動が見られるのも、マーモットの社会性の高さを示すひとつの例です。群れの中で争いを収めようとする個体が自然に現れるという点は、彼らが複雑な社会構造の中で生きていることをよく表しています。
そもそもマーモットってどんな動物?

山岳地帯に暮らすリスの仲間
マーモットは齧歯目リス科マーモット属に分類される動物で、いわばリスの大型版ともいえる存在です。ただし木にはほとんど登らず、山岳地帯や草原の地面に巣穴を掘って生活しています。体長は種類によって30〜75cmほど、体重は2〜8kg程度。ずんぐりとした体型に短い脚、小さな耳が特徴で、「自然界のぬいぐるみ」と呼ばれることもあります。
主な生息地はヨーロッパのアルプス山脈、中央アジアのヒマラヤ山脈、北アメリカの草原地帯など。南極大陸を除くほぼすべての大陸に何らかの種が分布しており、亜種を含めると15種ほどが確認されています。SNSで特に人気の高いヒマラヤマーモットは、標高3,000〜5,000mという厳しい高地環境に適応して暮らしている種です。
長期間の冬眠と社会性の高さが特徴
マーモットの大きな特徴のひとつが長期間の冬眠です。夏の終わりごろから大量にエサを食べて脂肪を蓄え、秋になると巣穴の出入り口を土と糞で封をして、種類にもよりますが6〜9か月もの間眠り続けます。
もうひとつの特徴が、群れで暮らす高い社会性。コロニーと呼ばれる家族単位の集団を形成し、仲間同士でじゃれ合ったり、ホイッスルのような甲高い警戒音で危険を知らせ合ったりします。見張り役が外敵を察知すると一斉に巣穴に逃げ込むという連携プレーも見られ、その協力体制はなかなかのもの。SNSで話題の喧嘩ごっこも、こうした社会生活の中から生まれた行動のひとつです。
意外な声のギャップがある
マーモットにまつわるもうひとつのSNS人気コンテンツが鳴き声です。丸っこい体型からは意外に思えますが、マーモットは「アァァー!」という甲高い叫び声を上げることがあります。
天敵に襲われたときなどに発する警戒音なのですが、その声が人間の悲鳴に近いことから、SNSでは叫ぶマーモットの動画も定期的に話題になっています。ぎゅいーんな喧嘩動画とあわせてチェックすると、マーモットの意外な一面がよくわかります。
まとめ
SNSで「マーモットの喧嘩」として話題になっているあのシュールな取っ組み合いの正体は、「模擬戦闘(プレイファイティング)」と呼ばれるじゃれ合いです。後ろ足で立ち上がって互いの肩をつかみ、身体を限界まで「ぎゅいーん」と伸ばし合うあの動きは、群れの中の序列確認や戦いの練習、そして仲間同士の絆を深めるためのコミュニケーションとして機能しています。