犬でも猫でもない、「小さな家族」と暮らす日々。近年、ハリネズミやフクロモモンガ、爬虫類などのエキゾチックアニマルを飼育する人が増えています。しかし、彼らを診療できる動物病院は限られており、いざという時に頼れる場所を見つけられないという課題があります。
小動物メディアMinimaは、この課題に向き合うため、エキゾチックアニマルに特化した動物病院の情報共有サービス「ミニケア」を立ち上げます。
サービス開始に先立ち、特別連載「エキゾのはなし。」をスタート。飼い主、事業者、そして獣医師の方々に登場いただき、エキゾチックアニマルとの暮らしや、ケアの現状と課題について様々な視点から語っていただきます。
第5回のゲストは、一般社団法人ハムメディアの代表理事・ナシオさん。2017年から活動を開始し、これまで200匹以上のハムスターを保護してきた経験から、保護活動の現状、動物病院探しの課題、そしてハムスターの適正飼育について、詳しくお話を伺いました。
※記事内の写真はハムメディア様提供の保護ハムスターたちです。
ハムスター専門の保護団体を立ち上げた理由
スニーフくん——ハムメディアの活動内容について教えてください。
主な活動は、ハムスターの保護・譲渡活動ですね。それに加えて、飼育情報の啓発活動や発信、飼育で困っている方のサポート、あとはペットショップの環境調査なども行っています。
——ペットショップの調査というのは、具体的にどのようなことをされているんですか?
Webサイトに情報提供フォームを用意していて、そこから「この店舗の飼育環境に問題がある」といった情報をいただくことがあります。関東であれば現地に調査に行きますし、遠方の場合は情報提供してくださった方に、管轄の行政と協力して改善を進める手順をお伝えしてサポートしています。今月だけでも2件ほど情報がきています。
れいたん——そういった通報も含めて対応されているんですね。活動を始められたのは2017年とのことですが、きっかけを教えていただけますか?
実は私自身がハムスターを飼い始めたのも2017年の2月なんです。それ以前から、犬猫の保護団体でスタッフとして譲渡会のお手伝いなどをしていたのですが、その活動を知った状態でハムスターを飼育し始めて。ふと「ハムスターの保護団体ってないな」と気づいたんです。
——確かに、犬猫に比べるとハムスターの保護団体はなかなか聞かないですね。
そうなんです。迷子のハムスターの投稿なども結構見かけたりするんですが、そういう時に味方になってくれる存在がいないなと。小動物を扱う団体も、ウサギだけとか、チンチラとか、他の動物はあるんですけど、ハムスターは当時1つもなくて。
犬猫の団体で運営のノウハウを学んでいたので、「どうやったら団体を運営できるか」はある程度知っていました。それで、自分がやった方がいいなと思って立ち上げたという感じです。
よっちゃん——犬猫の団体での経験が大きかったんですね。ただ、ハムスターならではの難しさもあったのでは?
おっしゃる通りです。最初の頃は犬猫のノウハウをそのまま使えるかなと思ったんですけど、やっぱり扱っている動物の寿命も違いますし。団体として活動するという観点で考えると、ハムスターはなかなか大変な面も多かったです。少しずつ工夫して改善してきました。
——現在はどのような体制で活動されているんですか?
スタッフには4つの種類があります。ハムスターのお世話をしてくださる「預かりスタッフ」、SNSで困っている方をサポートする「サポートスタッフ」、Webサイトやイラストなど技術を提供してくれる「技術スタッフ」、そして「コアスタッフ」ですね。いわゆる役員に該当します。スタッフ全体で約35人ほどになります。
翔太くん——結構大きな規模ですね。最初は任意団体として始められたんですよね?
はい、2021年5月頃に法人化しました。寄付金などの規模が少しずつ大きくなってきて、一般社団法人の形を選びました。
——Webサイトを拝見すると、収支報告もしっかり公開されていますね。
やはり寄付金をいただいているので、そこはしっかりすることが私たちの義務だと思っています。初めてハムメディアのことを知ってくださった方が、「ここはちゃんとした団体なのか?」と判断する時に、収支報告は結構重視されるポイントだと思うので。経理担当のスタッフがしっかり管理してくれています。
茶介くん今まで保護してきたハムスターは200匹以上
——これまでにどれくらいのハムスターを保護されてきましたか?
保護したハムスターには「HAM管理番号」を振っていて、今は166番まで採番しています。管理番号を振らない子も含めると、プラス50匹ぐらいで、トータルで200匹を超えているぐらいです。
——想像以上の数でした。
最近も、警察から保護した子が妊娠していて、保護して翌々日ぐらいに出産して11匹生まれてしまったということもありました。そういう予想外のこともありますね。
ねるちゃん——保護が必要なハムスターは、どのような経緯で発生するんでしょうか?
警察経由の屋外で保護されたハムスターの大半は、様々な事情で飼育が難しくなり遺棄されたのだと思います。遺棄は犯罪であることを認識していただきたいです。
多頭崩壊からの保護もあります。ハムスターはすぐに増えてしまいます。人が防げることなので、脱走防止や部屋んぽ中は目を離さないなど徹底をお願いしたいです。
ハムスターは日本では野生で生きていけないので、屋外にいる子は遺棄をされたり、迷子になった子たちです。体も小さいですし。人の目に見つかって保護できている子もいれば、見つかっていない子も多分いるんだろうなと思います。

——保護後、長生きできることもあるんですか?
ありますよ。「サポートファミリーハムスター」という、譲渡せずにうちで終生飼育する子の中に、屋外で保護された子がいて。その子は保護してから2年ぐらい経って、平均寿命以上に長生きできたケースがありました。
——それは嬉しいですね。本当の迷子の場合、飼い主さんに返せたこともあるんですか?
1回だけありました。埼玉の屋外で見つかった子を警察経由で引き取って。うちのスタッフがたまたまペットの迷子データベースサイトを見ていた時に、「この前保護した子に結構似ているな」という投稿を見つけて。それでコンタクトを取ってみたら、飼い主さんだとわかって返せたんです。
本当に初めてだったので、ちゃんと帰してあげることもできるんだなと思って、すごく嬉しかったですね。
あんずちゃんハムスターの譲渡会を行わない理由とは?
——犬猫の団体のノウハウで、ハムスターには使えなかった部分があったとおっしゃっていましたが、具体的にはどんなことでしょうか?
一番大きいのは、譲渡の方法ですね。犬猫やウサギは譲渡会を開いて、実際に会場で触れ合ってもらうという形が一般的なんですけど、ハムスターは環境変化に弱い動物なので、譲渡会を開くわけにはいかないなと。

——確かに、イベント会場に連れて行くのはストレスになりそうですね。
そうなんです。それで、オンラインでの面談を取り入れました。対面は必要最低限、本当に譲渡する時だけにして、それ以外はオンラインのビデオ通話で、毎回90分ぐらいかけてしっかり話した上で譲渡できるという仕組みを作りました。
——かなりじっくりお話されるんですね。
ハムスターを家族として迎える準備ができているか、飼育環境はどうか、最後まで責任を持って飼えるか。そういったことをしっかり確認したいので。オンラインだと、応募者の方もご自宅からリラックスして参加できますし、お互いにとって良い形だと思っています。

ハムメディアの活動と動物病院の選び方
——Webサイトにハムスターを診ることのできる動物病院のリストがありますが、これはどのように作られたんですか?
病院のWebサイトでハムスターが診られることが明記されていることが大前提です。それにプラスして、エキゾチックの学会に所属しているかどうかなどの情報を付与している感じですね。
情報は古くなることもあるので、第三者の方から「元々ハムスターを診ていたけど今は診ていない」という情報提供があった時は、リストから外すという形で更新しています。
——保護活動をする中で、動物病院にお世話になることも多いのではないでしょうか?
そうですね。お世話になっている病院は結構あります。病院によって設備も違うので、症状に応じて使い分けています。例えば小動物用のレントゲンを撮る機器があるとか、より専門的な診療が必要な場合はもっと設備が充実している病院に行くとか、セカンドオピニオンを活用しています。
じゅえるくん——スタッフさんがお住まいの地域によっても、通える病院が変わってきますよね。
預かりスタッフは関東圏に住んでいるんですが、ハムスターの移動時間をなるべく減らしたいので、なるべく距離が近くて診られる病院を選ぶようにしています。
——特に信頼している病院はありますか?
現在お世話になっている病院は、預かりスタッフの最寄りの病院が多いですが、どの病院もエキゾに強い病院なので、信頼しています。
信頼できるかどうかは、技術や設備はもちろんですが、飼い主さんと病院の相性も関係してくると感じています。
ハムスターでよく見かける病気と適正な飼育方法について
——保護活動の中で、ハムスターでよく見かける病気はありますか?
シニアになってきたら、ゴールデンハムスターは循環器というか心臓系の問題が出やすいですね。ジャンガリアンハムスターは腫瘍が多いです。女の子は子宮系の病気も多いです。あとは種類を問わずよく出てくる症状として、脱毛があります。一部だけ毛が抜けてしまうとか。
ダニなどの検査をしても特に出てこなくて、単純にホルモンバランスの関係という場合が多いんです。そうなると、なかなか改善が難しいこともあります。
よっちゃん(飯田橋)——では、健康に過ごすための適正な飼育環境について教えていただけますか? 特にケージの広さなど、基準があれば知りたいです。
ゴールデンハムスターはケージサイズが60cm以上、回し車は21cm以上ですね。体格が大きい子だと25cmを使ったりします。ジャンガリアンハムスターやキャンベルハムスターは、ケージ40cm以上、回し車15cm以上です。
意外に思われる方が多いんですが、ロボロフスキーハムスターは体は小さいんですけど、とてもよく走るんです。本当にケージの中をずっと走り回るので、ジャンガリアンよりもむしろ広いスペースが必要なんですよ。うちの団体としては、ケージサイズはゴールデンと同じで60cm以上を推奨しています。


——これらは最低基準という理解でよろしいですか?
はい、本当に一番最低限のラインです。もっと広くできるなら、全然広くしてもらった方が良いと思います。意外なことに、海外の愛好家の方がこの基準を知ると「全然狭い」と驚かれるんです。海外では広いケージが当たり前なので。
——そんなに違いがあるんですね。なぜ日本と海外でこれほど差があるんでしょう?
多分、住宅事情が関係しているのかなと思います。日本の家は海外に比べて狭いことが多いので、大きなケージを置くスペースの確保が難しいという現実があって。それに合わせて、メーカーが市販しているケージのサイズも決まってきたのかなと推察します。
本来のハムスターにとって快適な環境というよりも、日本の住環境に合わせたサイズになっているのかもしれませんね。
関東以外への展開と団体運営の難しさ
——活動は関東中心とのことですが、他の地域からの要望はありますか?
結構、大阪にも支部を置いて関西圏でも活動してほしいという要望はすごく受けます。皆さんから色々な形でいただきますね。
——それだけニーズがあるということですよね。実現は難しいんでしょうか?
正直、今の体制では厳しいです。大阪に支部を作ってしまうとスタッフの数を増やさないといけないですし、費用もかかり、管理の手間も多分跳ね上がると思います。今の私たちが平日やお昼に行っている本業と両立しながらできることなのかというと、結構難しいかなと。本当に作れたらいいなとは思うんですけど。
ゾーフくん——他の地域では、どのような状況なんでしょうか?
数年前に、大阪にハムスターの団体が立ち上がったことがあったのですが、残念ながら活動を終了されてしまって。それを見て、団体運営の難しさを改めて感じました。
今は、ハムスターを個人で保護活動されている方が少数名いらっしゃって、そういった方々に支えられているのかなと思います。別の地域で新しくハムスター団体が立ち上がってくれたらいいなと思います。
——もし立ち上げたいという方がいたら、協力をお願いできたりもするのでしょうか?
もちろんです。立ち上げるためのノウハウで、教えられることは共有したいと思っています。全国各地にハムスターの保護団体ができて、横の繋がりができれば、もっと多くのハムスターを助けられるようになると思うので。
れいたんミニケアへの期待「動物病院に行く選択肢を当たり前に」
——最後に、ミニケアへの期待があれば教えてください。
当団体のWebサイトの病院リストは、ハムスターの飼育初心者が「どこの病院に行けばいいかわからない」という時のために作ったものなんです。「そもそもハムスターは病院に行った方がいいのかな?」と思っている人のための、本当に入口のリストなんですね。
だから、ミニケアのような、しっかりとした病院情報のサービスが広く認知されて「病院のことを知らないから病院に行かない」という選択をする人が減ってくれたら、本当にすごく嬉しいなと思います。
Minimaでは「ミニケア」の本格始動に向けてクラウドファンディングを11月より実施します。
小さな命を守るために、エキゾチックアニマルの診療環境を一緒に変えていきませんか。あなたの応援が、誰かの大切な家族を救うことにつながります。
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