犬でも猫でもない、「小さな家族」と暮らす日々。近年、ハリネズミやフクロモモンガ、爬虫類などのエキゾチックアニマルを飼育する人が増えています。しかし、彼らを診療できる動物病院は限られており、いざという時に頼れる場所を見つけられないという課題があります。
小動物メディアMinimaは、この課題に向き合うため、エキゾチックアニマルに特化した動物病院の情報共有サービス「ミニケア」を立ち上げます。
サービス開始に先立ち、特別連載「エキゾのはなし。」をスタート。飼い主、事業者、そして獣医師の方々に登場いただき、エキゾチックアニマルとの暮らしや、ケアの現状と課題について様々な視点から語っていただきます。
第10回のゲストは、宮城県石巻市でフトアゴヒゲトカゲのブリードを行うPOGO POGONA(@Pogo_Pogona25)様。「入門種」と呼ばれることの多いフトアゴですが、基本を怠れば簡単に体調を崩してしまう繊細な生き物。地方ならではの動物病院事情や、不調を出さない飼育を目指す姿勢について、ブリーダーの視点からお話を伺いました。
最大のこだわりは"基本の徹底"
ーーまず、POGO POGONA様の活動内容と、フトアゴヒゲトカゲをブリードされている理由を教えてください。
POGO POGONAでは、小売、イベント出店、卸にて、自家繁殖のフトアゴヒゲトカゲのみを販売しています。扱うのは、自分の管理下で健康に育てた個体だけです。
ブリードを始めたきっかけは、単純に「フトアゴが大好き」という気持ちでした。ただ、本気でこの道を目指すようになったのは、あるブリーダーさんとの出会いがきっかけです。次世代のフトアゴの未来まで見据え、妥協のない選別と飼育を続けるその姿勢に強く惹かれました。「自分もこうなりたい」と、今もその背中を追い続けています。

ーー飼育において、特にこだわっていることはありますか?
"基本を徹底すること"が最大のこだわりです。温度、紫外線、湿度、給餌など、特別なことをするより、毎日の安定した管理が個体の健康を大きく左右します。特にバスキング温度とUVの管理は細かく見直し、成長段階に合わせて環境を調整するようにしています。
フトアゴは"入門種"と呼ばれることが多いですが、基本を怠れば簡単に体調を崩してしまう繊細な生き物です。だからこそ、お迎えいただくお客様には基本を丁寧にお伝えし、責任を持ったサポートを心がけています。私の根底にあるのは、"真のブリーダーになりたい"という強い想いだけ。その気持ちで日々の飼育に向き合っています。
ーー健康な個体を育てるうえで、日々どのようなケアや環境管理を大切にされていますか?
一番大事にしているのは"環境の安定"です。フトアゴは環境の変化に敏感で、少しのズレでも体調を崩してしまいます。その反面、環境を正しく整えれば、不調が改善されることも多いと実感しています。
特に意識しているのは、バスキング温度を表面温度計で実測すること、メタハラや適切なUVBライトを使用し、UVB測定器で数値を確認すること。それから、排泄状況に合わせて給餌量やバランスを調整すること、そして毎日の観察で"いつもと違う"を見逃さないことです。
フトアゴ飼育にライト類は欠かせませんが、「光っていれば良い」というわけではありません。役割を果たしていないライトは、ただの装飾品になってしまいます。だからこそ、UVB量や温度を"見える化"して管理することが非常に重要だと考えています。
特別なことをしているわけではないのですが、基本を丁寧に積み重ねるだけで、個体の育ち方は本当に大きく変わると日々感じています。

ーー初めて爬虫類を迎える方は、どのような点でつまずきやすいのでしょうか?
一番多いのは、温度管理や紫外線管理の不足によるトラブルです。特にお迎えから数日間は環境に慣れていないため体調を崩しやすく、この時期のサポートが非常に重要だと感じています。
初心者の方には必ず4つのポイントをお伝えしています。まず、温度と紫外線を正しく整えること。次に、ケージ内にきちんと温度差を作ること。そして、お迎え直後は触りすぎず、環境に慣れてもらうことを優先すること。最後に、数日経っても食べない場合は"まず環境を疑う"こと。これらを理解していただくと、その後の飼育が驚くほど安定します。

ーー販売時に、特に念入りに説明されていることはありますか?
ライト類の選び方ですね。ご家庭の室温、湿度、設置場所などで適正が大きく変わるため、「このケージなら○○Wで大丈夫ですよね?」と聞かれても、一概に断言するのは無責任だと考えています。
実際に、温度が足りていなかったケースや、逆に高すぎたケース、紫外線が近すぎて雪目になってしまったケースなど、"環境の微調整不足"が原因のトラブルを多く見てきました。
正しい知識をお渡しするのはもちろんですが、"ご自身の環境を目で見て、数値を確認して調整する"という姿勢がとても大切だということを、特に強くお伝えしています。
爬虫類を診療できる動物病院探しの大変さ
ーー爬虫類を診療できる動物病院が少ないという課題があります。ブリーダーとして活動されるなかで、「病院が見つからない」「診てもらえなかった」といった相談を受けることはありますか?
あります。爬虫類は専門性が高く、病院によって知識や経験に大きな差があるのが現実です。特にこちらは地方ということもあり、犬猫メインの病院が多いですね。私自身も過去に問い合わせた際、「診れるけど……」という曖昧な返答を受けたことがあります。
だからこそ、"お迎え後に飼い主さんが困らないように"を第一に考え、販売時に初期トラブルを防ぐためのアドバイスを徹底しています。正しい環境作りができていれば避けられる不調も多いので、病院に頼る以前に「不調を出さない飼育」を一緒に目指すことを、何より大切にしています。

ーーご自身の飼育個体に体調不良が出た際は、どのような対応をされていますか?
かかりつけの先生に診てもらえる体制を整えています。爬虫類は「症状が出たときにはすでに悪化していることが多い」という特性があるので、"気になる時点で連絡する"ことを徹底しています。その積み重ねもあり、これまで大きな病気や深刻なトラブルは経験していません。
ブリーダーとして特に意識しているのは3つあります。むやみに自己判断で処置しないこと、些細な変化でも早めに相談すること、そして写真や体重変化などの記録を残して診察に活かすこと。この3つを守ることで、個体の健康管理が安定し、結果的にトラブルの予防につながっていると感じています。

ーー爬虫類診療について、「ここがもっとこうなると助かる」という点はありますか?
爬虫類診療は、病院ごとの経験値の差が非常に大きいことが課題だと感じています。特に地方では爬虫類に詳しい先生が限られていて、「診てもらえる病院が遠い」「対応できる症例が限られている」という状況に直面することが多いです。
ブリーダーとして願っているのは、症例や知識の共有がもっとオープンになってほしいということですね。病院同士や専門家同士の情報がつながれば、地方でも受けられる診療の質が大きく向上すると思います。診療体制が整えば、正しい飼育がさらに広がり、爬虫類全体の未来にもつながるのではないでしょうか。

ーーエキゾチックアニマルの診療情報を共有するサービス「ミニケア」について、ブリーダーとしてどのような期待をお持ちですか?
正直に申し上げると、現時点で「これが欲しい」という明確な要望はありませんが、爬虫類の診療情報がまとまって見られる仕組み自体は、とても心強いと感じています。
特に地方では病院探しに苦労することが多いので、"診てもらえる病院がすぐに見つかる"というだけで、飼い主さんの不安は大きく軽減されると思います。
期待しているのは、診療可能な病院の情報が正確に更新され続けること、そして経験のある先生と飼い主さんがつながりやすくなること。この2点がしっかり機能すれば、飼育者全体の安心につながると感じています。
そして何より、このようなサービスが定着し、より多くの飼育者に広く伝わっていくことを心から願っています。爬虫類の未来のためにも、とても意義のある取り組みだと思います。
Minimaでは「ミニケア」の本格始動に向けてクラウドファンディングを実施しています。
小さな命を守るために、エキゾチックアニマルの診療環境を一緒に変えていきませんか。あなたの応援が、誰かの大切な家族を救うことにつながります。
クラウドファンディングURL:https://readyfor.jp/projects/minicare
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