特集「CHERUBiC Selection — ちいさな手仕事をたずねて」
普段は保育士と子ども絵画教室講師として働きながら、週末だけ絵筆を手に取る。水彩で描かれるのは、かつて一緒に暮らしたハリネズミ・はなちゃんの姿——。
小動物雑貨ショップ「CHERUBiC(チェルビック)」に作品を委託するハンドメイド作家を紹介する本特集。今回お話を聞いたのは、ハリネズミの水彩画を中心にグッズ制作を行う「めめはり」さんです。
絵を描くことから20年以上離れていたと語るめめはりさんは、なぜふたたび筆を握ることになったのか。その背景には、娘さんとハリネズミの出会い、そして「子どもと絵をつなげたい」という想いがありました。
文・取材:Minima編集部
花に包まれたハリネズミ。めめはりさんの水彩画の世界
めめはりさんの作品の真ん中にいるのは、いつもハリネズミです。ホワイトやブラウンを基調としたちいさな体のまわりを、花やシャボン玉がふんわりと囲みます。背景はすべて透明水彩で描かれていて、にじみが生み出す淡い色の広がりが、画面全体にやわらかな空気をまとわせています。ハリネズミ本体も水彩で塗り上げたあと、針や目元といった細部には水彩色鉛筆を重ね、繊細な表情を加えているそうです。
花に包まれたハリネズミを描いた水彩画この原画をもとに、缶バッジ、シール、キーホルダー、レジンアクセサリー、さらには巾着やポーチといった布小物まで、さまざまなグッズに展開しています。すべてのアイテムに共通しているのは、ちいさくなっても“水彩のふわっとした質感”がきちんと残っていること。グッズひとつひとつに、原画の色味を忠実に再現するためのレタッチ作業が施されています。
水彩原画から展開した雑貨と、ちいさな額装作品「チクチクして痛い」と思われがちなハリネズミを、「小さくて、やわらかくて、可愛いらしい生きもの」として届けたい。めめはりさんの作品には、そんな想いが一貫して流れています。
ハリネズミとの出会いは、家族の動物アレルギーがきっかけに
めめはりさんがハリネズミを飼い始めたのは、コロナ禍のころ。きっかけは、娘さんの動物アレルギーでした。
「娘が動物の毛全般にアレルギーがあって、どんな動物も飼えなかったんです。それでも動物と暮らしたいという気持ちが強くて、高校生になった娘が自分で調べてきて、『ハリネズミなら毛が抜けないから一緒に暮らせると思う』と言ってきたんです」
それで埼玉県のブリーダーさんに直接相談し、事前に“体験”をさせてもらったといいます。こうして家族に迎え入れたのが、はなちゃんでした。
手の上に乗るハリネズミのはなちゃん「お尻はもちもちなのに、背中だけ針でツンツン」
ハリネズミとの暮らしは、めめはりさんにとって“初めての感覚”の連続だったそうです。
「フローリングをコツコツと、早歩きで走り回るんです。お尻はもちもちなのに、背中だけ針でツンツンしてて。顔だけ見ると小さなタヌキみたいなのに、足がすごく速い。猫は小さい頃に飼っていたけど、全然違う感覚の生きものだなって思いました」
名前を呼んで来てくれるわけではありません。でも、触っても怒らない日がある。「今日はいいよって思ってくれてるのかな」と感じながら、そっと撫でる——。ハリネズミとのコミュニケーションは、犬や猫とは違う、静かで穏やかなものだったといいます。
「構ってほしくない時はずっと寝ていてくれるし、忙しくしていても寂しそうにさせてしまう負担がなくて。結構自由な感じで一緒にいてくれる生きものでした」
お風呂が気持ちよさそう♪娘さんだけでなく、めめはりさん自身もすっかりハリネズミの虜になり、家族全員でどっぷりとハマっていったそうです。はなちゃんは5年ほど一緒に暮らし、数年前に虹の橋を渡りました。
20年ぶりに筆を握ったのは、子どもたちに“好きなもの”を見せるため
めめはりさんは現在、保育士の仕事と、子ども絵画教室の講師をしています。もともと若い頃にグラフィックデザインの仕事をしており、学生時代には水彩画を学んでいました。しかし子育てが始まってからは、20年近く絵の制作をしていなかったそうです。
転機になったのは、絵画教室での出来事でした。
「子どもたちの展示会に、先生たちも作品を出してほしいと言われたんです。“創作活動を続けている大人”として子どもたちの刺激になるから、と。でもその時、自分の絵が1枚もなかったんです」
何を描くべきか迷ったとき、周囲からこんなアドバイスをもらいました。「好きなものじゃなきゃ続かないよ」。そのとき一番大好きだったのが、はなちゃんでした。
「あまりメジャーじゃない生きものだから『なんだろう?』と思われるかもしれない。でも、すごく可愛いんだよっていうのが伝わったら、イメージも変わるかなって。『チクチクしてる』とか『痛い』って言われるけど、本当は可愛い生きものなんだよ、って」
水彩にこだわる理由は「ハリネズミの“やわらかさ”を伝えるため」
めめはりさんはなぜ、数ある画材のなかから水彩を選んだのでしょうか。そこには、ハリネズミならではの理由がありました。
「ハリネズミをリアルに描くと、針のチクチク感が目立ってしまう。でも実際に触れると、本当にふわっとしているんです。あのやわらかさを伝えたかった」
水彩のにじみや透明感で、ハリネズミのやわらかさを表現ハリネズミのことを「飼ってるって言うと、まず『痛くないの?』って聞かれるんです」とめめはりさんは笑います。チクチクしたイメージが先行するなかで、水彩のにじみや透明感は、飼い主だけが知っているあの“ふわっ”とした体感を、絵を通じて伝えてくれる画材でした。
最近は表情の工夫にも力を入れているといいます。
「犬なら口を大きく開けた絵を描けば、笑ってるワンちゃんの絵になる。でもハリネズミは表情が出にくいから、目とか、ちょっとしたほっぺの色で“笑ってる感じ”を出せないかなって。手や足の描き方も好きで、あんな大きな体にちっちゃな手足がついてる。はなちゃんが手を揃えて寝てる姿が好きだったので、つい描いちゃいますね」
目元やほっぺ、小さな手足まで丁寧に描かれています缶バッジになっても“水彩”を保つ。データづくりへのこだわり
めめはりさんの制作で最も時間がかかるのは、実は絵を描く工程の後だといいます。原画を撮影し、グッズに落とし込むためのデータ調整——いわゆるレタッチ作業です。
「水彩作家として出している以上、缶バッジのようなちっちゃなグッズになっても『水彩だよね』とわかる品質は保ちたくて。でもポストカードにする紙とシールにする紙では色の出方が違うので、全部に合わせたデータを別々に作る必要があるんです。1枚の絵の色調整だけで4〜5時間かかる日もあります」
原画の色合いを生かした缶バッジ平日は保育士として働き、制作に使えるのは週末だけ。さらに家族の予定が入ることもあります。1つの作品が完成するまでに気が遠くなるほど時間がかかりますが、だからこそ、めめはりさんは原画を手放すことがなかなかできないのだそうです。
「はなちゃんを可愛く描き上げた絵を、いくらお金をもらっても手放すのはちょっとしんどいかなって。でも、原画を見ていいなと思ってくれる人がいるなら、それに忠実な複製画やグッズを届けていくことが、今の自分にできることかなと思っています」
原画の色味と水彩の質感を生かしたマスキングテープ7センチほどのちいさなイラスト作品は、手に取りやすい価格で販売しています。「玄関に飾りました」と報告してくれるお客さんもいるそうです。
暮らしの中に迎えやすい、ちいさな額装作品「絵を買うこと自体にハードルを感じる方もいて、展示会に足を踏み入れるだけで敷居が高いと思う方もいる。だから、もっと手軽に“絵をおうちに迎える”体験があっていいと思うんです」
CHERUBiCが連れて行ってくれる場所
めめはりさんがCHERUBiCに委託を始めたのは、自ら声をかけたことがきっかけでした。ハリネズミのグッズを扱うお店が少ないなか、CHERUBiCの存在を見つけ、DMで連絡を取ったといいます。
「『ハリネズミは取り扱いが少ないから、どんな感じの販売になるかはわからないけど、大丈夫ですよ』と言っていただいて。急かさず、ものができた時に納品させてもらえる関係がありがたいです」
CHERUBiCが全国各地のイベントに出店する際に、めめはりさんの作品も一緒に“旅”をします。自分だけではたどり着けない場所へ、作品を届けてくれる存在です。
「『小動物のイベントでCHERUBiCさんのブースから私のグッズを買いました』って、初めての方からInstagramにご連絡をいただいたことがあって。自分だけだったら絶対に届かないお客さんだったと思うので、本当に夢のようです」
最近力を入れているのは、レジンを使ったアクセサリー系のグッズです。キラキラしたラメ入りのアイテムは、従来のファン層よりも幅広い年齢層に届くようになったといいます。
ハリネズミとパンの水彩画を使ったレジンアクセサリーさらに、布への印刷にも挑戦を始めました。巾着やポーチなど、日常で持ち歩けるアイテムに展開することで、「もう少しそばに置いてもらえる」グッズを目指しています。
日常で持ち歩ける布小物も水彩を始めてみたい人へ——「やってみちゃうのが一番」
最後に、絵画教室の講師でもあるめめはりさんに、水彩画に興味がある人へのアドバイスを聞きました。
「小学校で使っている絵の具でも全然描けます。ちょっといい水彩紙を買うと、にじみの広がりが全然違って感動するので、紙だけはいいものを使ってみてほしいかな。でも一番大事なのは、描きたいものを見つけること。私も20年ぶりに始めたので、ハードルはないと思います。やってみちゃうのが一番です」
はなちゃんが残してくれたもの。それは、20年の空白を超えて筆を握る理由であり、ハリネズミの愛らしさを世の中に届ける原動力です。めめはりさんの水彩画には、静かだけれど確かな“ぬくもり”がにじんでいます。
画像提供:めめはり
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