岡山大学の研究グループが、ラットにおいて第2指(人差し指)と第4指(薬指)の長さの比が性的活発性の指標となることを世界で初めて明らかにしました。この研究成果は、2025年5月14日付で国際学術誌「Experimental Animals」電子版に掲載されています。
研究の背景と概要
研究を行ったのは、岡山大学大学院自然科学研究科の林姫花特任助教(研究当時は博士後期課程でOU-SPRING生)と、学術研究院環境生命自然科学学域の坂本浩隆教授(神経内分泌学)の研究グループです。
2D:4D比は、胎児期の男性ホルモンへの曝露(アンドロゲンシャワー)の程度を反映する形態学的指標として知られており、ヒトの手では男性で有意に小さい値を示す性的二型として確認されています。
研究結果の詳細
指の長さにおける性差の確認
研究では、ラットの前肢においても、オスはメスよりも第2指が短く、オスで小さい2D:4D比を示すことが判明しました。これは、ヒトの場合と一致する結果となっています。


性的活発性との関連性
性的活性と2D:4D比の関係を調べた結果、初回の性行動テストで射精に至ったオスは、射精に至らなかったオスに比べて第2指が有意に短いことが明らかになりました。
さらに、第2指の長さで群分けを行い性行動を比較したところ、第2指が短いオスは第2指が長いオスよりも性的に活発であることが確認されました。
嗅覚選好性への影響
研究では、第2指が短いオスのみがメスの匂いに対して明確な選好性を示すことも判明しました。これらの結果は、子宮内ホルモン環境を反映する形態学的特徴が、脳の性分化と性的活性に影響することをラットで初めて明らかにしたものです。

研究の意義と今後の展望
本研究は、ラットの第2指の長さが性的活性や選好性を反映する有用な形態学的指標であることを示しており、今後、性的指向性の神経生物学的メカニズムの解明にも貢献することが期待されています。
研究者のコメント
<坂本浩隆教授>
指先をみるだけで行動傾向がわかる時代が、ついに到来したかもしれません。古くから手相占いでは手のシワや形から性格を読み解こうとしてきましたが、今回は「指の長さ」という客観的な指標から、性的活発性の傾向が予測できる可能性が科学的に示されました。
動物実験の成果がヒトの理解へとつながる——その過程で、指がまさに「指し示す」道のりはまだ長いかもしれませんが、本研究がその「指南役」となれば幸いです。ただし、指の長さだけで個人を判断するのは早計です。研究室では常に『指をみて人を見ず』とならぬよう、肝に銘じています(笑)

<林姫花特任助教>
匂いに対する性的選好性や性行動の活発さは、行動テストをするまでわからないと思っていましたが、ラットでも「指先」をみるだけである程度の予測ができるとわかりとても驚きました。生まれる前のホルモン作用と成熟後の性的活発性の両方が反映されている指は、性的多様性を理解するための重要な手(指)がかりになりそうです。

研究資金と支援
この研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業、岡山大学次世代研究拠点形成支援事業、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団および岡山大学次世代研究者挑戦的研究プログラム(OU-SPRING)からの支援を受けて実施されました。
論文情報
- 論文名: Sexual activity is predicted by digit ratio in rats(ラットにおいて指の長さは性的活発性の指標となる)
- 掲載誌: Experimental Animals
- 著者: Himeka Hayashi & Hirotaka Sakamoto(責任著者)
- DOI: https://doi.org/10.1538/expanim.24-0159